ファイナンス 2022年6月号 No.679
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とOISのどちらが望ましいか321086420*17) もし乖離があれば流動性プレミアムによる結果あるいは裁定が十分に働いていない等の要因が考えられます。*18) WIRPではOISでも向こう1年の予測しか出していないので、1年より先の予測を知りたい場合はフォワード・レートを見る必要があります。2.51.50.5(出所)Bloomberg図表8 金利先物によるインプライド金利および利上げ・利下げ回数(%)5/4/20226/15/20227/27/20229/21/2022引上げ/下げ数インプライド金利11/2/202212/14/20222/1/202310 48 ファイナンス 2022 Jun.4.3  利上げ確率を考えるうえで、金利先物ク・フリー・レート入門」を参照してください)。日本の金利先物についてもTONAを原資産としている金利先物が活発に売買されていれば、これまで説明してきたのような形で利上げ(利下げ)確率を算出することができます。もっとも、服部(2022a)で説明したとおり、TONAを原資産とする金利先物は現在、取引がなされていないため、日銀の利上げ確率を分析する場合、TONAを原資産とする金利スワップ、すなわち、OISのカーブに立脚して利上げ確率を計算する傾向があります。Bloombergが提供するWIRPにおいても、日本についてはOISを用いた利上げ・利下げ確率を算出しています(実際、Bloombergはユーロ円金利先物から算出した利上げ確率は計算していません。ユーロ円金利先物は現在、円金利市場で(流動性は低いものの)唯一取引がなされている金利先物ですが、その原資産はTONAではなくTIBORです。詳細は服部(2022a)を参照してください)。OISを用いて利上げ確率を計算した場合も、基本的にこれまでの議論と考え方は同じです。というのも、基本的にはOISのカーブからフォワード・レートを計算して、その予約金利を投資家の予測金利とみなして利上げ確率を計算するからです。服部(2020)で説明したとおり、フォワードと先物の違いは基本的には、前者が店頭取引であり、後者が取引所取引という制度的なものであり、本質的には同じ予約取引です。そのため、OISを使ったとしても、FF金利先物のような金利先物を使ったとしても、本質は変わらず、あくまで予約金利に立脚して利上げ確率を計算するわけです。金利先物の価格あるいはOISの価格のどちらを用いて分析するべきかは難しい論点ですが、流動性が高い市場で形成された予約金利をベースに利上げ確率を考える必要があります。例えば、OISに全く流動性がなく、1日に数回しか取引されなかった場合、そのプライスは単なる少数の意見にすぎません。読者としても、数人の取引で決まった価格に立脚して利上げ確率を見せられたとしても、必ずしも信用できるとは限らないと感じるはずです。一方、膨大な売買な結果、形成された価格であれば、その価格に多くの投資家の意見が集約されていると考えることができ、そこから算出される利上げ確率は有益である可能性が高まります。米国の場合は、金利先物(FF金利先物およびユーロドル金利先物)の流動性が高いため、基本的には金利先物に立脚して利上げ確率を考える傾向があります。もっとも、米国ではOISの流動性も低くないことから、OISから算出した利上げ確率も実務家はチェックしています。実際のところ、Bloombergを用いれば、米国についてはFF金利先物だけでなくOISに立脚した利上げ確率も計算しているため、OISの価格から算出された利上げ確率を簡単に確認することができます(筆者の理解ではFF金利先物を使うか、OISを使うかで大きな差が生まれることはありません*17)。また、前述のとおり、FF金利先物の場合は、流動性がある先物がせいぜい向こう1年程度であり、2年先になるとそもそも取引がないこともあるため、長期的な予測を見るときにOISのカーブが有益であるという意見もあります*18。筆者の印象では、欧州などではOISを使う傾向があるように感じていますが、その一因として、OISであれば各国を統一的な指標で比較することができるという利点も指摘できます。実際、(執筆時点において)BloombergのWIRPでは英国やユーロ圏については金利先物に立脚した利上げ(利下げ)確率は用意しておらず、OISによる利上げ確率のみを算出しています(一方、豪州については金利先物による利上げ確率のみ

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