ファイナンス 2022年6月号 No.679
45/106

*6) この特徴はユーロドル金利先物も同じです。ファイナンス 2022 Jun. 41フェデラル・ファンド(FF)金利先物および利上げ(利下げ)確率入門2.2  FF金利先物の予約金利はFF金利の1か月平均利である点です。FF金利先物の原資産はFFレートですから、FF金利先物は典型的には金融政策の予測に使われます。例えば、今のFFレートは1%であるものの、読者は2か月後にFRBによってFFレートが0.75%に利下げされ、それ以降は0.75%で推移すると予測していたとします。その中で、仮に2か月後にスタートする1か月間の(FFレートが示唆される)予約金利が1%(FF金利先物の価格は99)であったとしたらどうでしょう。これは将来金利が0.75%になると読者が考えるにもかかわらず、相対的に魅力的な1%で(利下げ以降も)運用できることを意味するわけですから、FF金利先物をロングすることにメリットを感じるはずです。もし多くの投資家が読者と同様、金利が下がり、2か月後に0.75%になると考えていれば、(IMM指数でみれば)99の水準で多くの投資家がこのFF金利先物を買いますから、FF金利先物の価格は99.25まで上がる(つまり0.75%でこの期間を予約できる価格まで上がる)と予想されます。多くの投資家がFF金利先物を売買しているとすれば、FF金利先物で形成される予約金利には投資家の予測が反映されますから、FF金利先物の価格をみれば、FFレートについて投資家がどのような予測をしているかを観測することができるわけです。ここから少し丁寧にFF金利先物の商品性について説明します。FF金利先物も、服部(2022a)で説明してきた金利先物と構造は同じです。最も注意すべき点はFF金利先物の商品性は、「1か月間のFFレートの平均」を予約している点です。例えば12月限のFF金利先物の価格が99の場合、12月の月初から月末までの平均金利を1%で予約する取引になるということです。このように将来の予約金利が1か月の「平均金利」になっている点はFF金利先物が有する非常に重要な特徴です。服部(2022a)で説明しましたが、我が国で取引されるユーロ円金利先物は3か月のユーロ円TIBORが原資産です。例えば、読者が6月限のユーロ円金利先物をロングした場合は、6月からの3か月間の金利を予約していることになります。これはTIBORが前決めのターム物金利(3か月間の金利)であることから生まれる性質です(「前決め」や「ターム物」の概念については、筆者が記載した「金利指標改革入門」や「リスク・フリー・レート入門」を参照してください)*6。しかし、前述のとおり、FFレートはそもそもオーバーナイト(1営業日)の金利ですから、例えば、6月限をある時点のFFレートを予約できるという設計にすると、6月のある時点の1営業日を予約する取引になってしまいます。実際、金融政策の予測などに使う場合、そのタイミングで連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee, FOMC)があるとは限りません(FOMCとは日銀における金融政策決定会合に相当するものですが、詳細は服部(2022c)を参照してください)。もちろん、6月の営業日分の先物をそれぞれ上場させるということも考えられますが、営業日毎に新しい先物を上場させることは取引が分散してしまうなど流動性の観点から望ましくないでしょう。そこで、ある特定の月(例えば6月限)の先物はその月(例えば6月)の平均的なFFレートを予約するという仕組みにすることで、その月(例えば6月)のすべての期間をカバーするということが可能になるわけです。図表1がFF金利先物で予約する金利のイメージです。服部(2022a)では金利先物の特徴として、「金利先物の場合、各限月が特定の3か月の予約になっており、その予約期間が重複しないという特徴があります」(p.46)としましたが、FFレートというオーバーナイトの金利でも各限月がある月の平均金利になることで、図表1のように、予測期間が重複せず各月をカバーできるようになっています。ちなみに、ドルLIBORの公表停止に伴い、ドルLIBORを原資産にしていたユーロドル金利先物の代替としてSOFR先物の取引が開始されました。担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate, SOFR)とは1営業日のレポ金利であり、SOFR先物はSOFRを原資産としています。その意味で、FF金利先物のように1営業日の金利を原資産としている点が共通しており、SOFR先物(1か月物)についてもFFレートと同様、原資産はSOFRの1か月平均になっ

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る