ファイナンス 2022年6月号 No.679
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1はじめに本稿はフェデラル・ファンド金利先物(FF金利先物)や利上げ(利下げ)確率の考え方を紹介することを目的としています。おそらく、読者にとって最もなじみ深い金利先物はFF金利先物ですが、その背景には米国の中央銀行の利上げや利下げを予測するうえで用いられることがあります。米国の金融政策は金融市場を中心に様々な影響をもたらすことから、メディアでもFF金利先物に立脚した利上げ確率の予測は頻繁に取り上げられます。もっとも、筆者の印象では、その考え方を理解せずに、結論だけを用いているケースが少なくありません。そこで本稿ではFF金利先物に加え、利上げ(利下げ)確率をどのように算出しているかについて具体例を挙げながら説明します。https://sites.google.com/site/hattori0819/Fund Rate, EFFR)を指す傾向にあります。本稿では煩雑さを避けるため、FFレートと実効FFレートを特別区別せず記載していきます。*1) 本稿の作成にあたって、宍戸知暁氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 下記をご参照ください。 *3) 正確には、準備預金とは「民間銀行が中央銀行に保有している預金と、民間銀行の手元現金の合計」(p.395, アセモグル等 2019)です。*4) 服部(2022c)で説明したとおり、FFレートといった場合、通常はニューヨーク連銀によって日々公表されている実効FFレート(Effective Federal *5) Fed Funds Futuresと書かれることも少なくありません。東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1 40 ファイナンス 2022 Jun.2フェデラル・ファンド(FF)金利先物2.1 FF金利先物:FFレートの予約取引本稿では、金利先物の基本的な知識を前提とさせていただくため、金利先物の基礎について確認が必要な読者はまずは筆者が執筆した「金利先物およびTIBOR入門」(服部, 2022a)を一読していただければ幸いです。また、フェデラル・ファンド市場(FF市場)やFFレート(FF金利)の基本については「フェデラル・ファンド市場およびFFレート入門」(服部, 2022c)で説明をしているため、そちらを参照してください。なお、筆者が記載してきた債券や国債の一連の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。FF市場とは、銀行が中央銀行に預けている預金、すなわち、準備預金*3を貸し借りする市場です。FFレート*4とは、FF市場で形成される金利ですが、服部(2022c)で説明した通り、これは米国における無担保のオーバーナイト(1営業日)金利でした。我が国における無担保のオーバーナイト金利は無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)と呼ばれていますが、基本的にTONAはFFレートと同じ概念の金利です。米国ではFFレートを原資産(デリバティブ取引の対象となる資産)とするFF金利先物(30 Day Federal Funds Futures*5)が取引されています。金利先物そのものは服部(2022a)で丁寧に説明したとおり、将来の金利を予約する取引でした。服部(2022a)で取り上げたユーロ円金利先物は、ユーロ円TIBORを予約する先物ですが、FF金利先物の場合、FFレートを予約する取引です(ちなみに、TONAを原資産とする円金利先物は現時点で取引されていません)。服部(2022a)で強調しましたが、金利先物の特徴はクオート(価格提示)される価格がIMM指数に基づく点です。例えば、現状のFF金利先物において、2022年6月における1か月間の金利を1%で予約できるとします。この場合、FF金利先物はその価格を99(=100-1)という形でクオートします。服部(2022a)で丁寧に説明しましたが、金利と価格は逆の動きをするため、「100-金利」という指数を作ることで指数の動きと損益を一致させる工夫がなされたわけです。FFレートが重要な点は、米国の中央銀行の政策金フェデラル・ファンド(FF)金利先物および利上げ(利下げ)確率入門

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