ファイナンス 2022年6月号 No.679
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プロフィール小杉 直史1989年国税専門官採用。東京国税局調査部、国税庁長官官房企画課・国際業務課、北京長期出張者、税務大学校研究部国際支援室、インドネシアJICA専門家、国税庁国際課税分析官を経て、2020年7月より現職。ファイナンス 2022 Jun. 39途上国の税務行政を診断するおわりにここまで読んで、「TADAT税務行政診断」業務に興味を持たれた方は、ぜひ審査官資格の取得に挑戦してほしい。身上申告書や職務経歴書の試験合格・資格欄に「TADAT審査官」と記載できたら、目立ってカッコいいし、評価者である上司の印象も(たぶん)良くなるだろう。もとより被審査国は小規模なので、年間の不服申立て件数がわずか数十件程度であり、ほとんどが税額計算誤り等の基本的な間違いによる申立てのため、分析のしようがない。さらに、不服審判所まで上訴された事案は数年前に一件あったのみであり、裁判まで提訴されたケースに至っては過去に一度もないため、それらの結果も活用しようがない。このような状況における評価については、審査チーム内で意見が分かれた。筆者としては、分析・活用可能な不服申立て事案が存在しなかっただけで、税務当局には全く落ち度がないのだから、評価が下がってしまうのは理不尽ではないか、と感じた。最終的にリーダーの判断で、「分析も活用もされていなければ、残念ながら評価が悪くなるのは仕方がない…」と、苦渋の決断が下されたが、どうにも釈然としない気持ちが残った。国際的人材育成の観点からも、TADATは非常に有益である。税務行政全般にわたる知識を英語で学べる上に、審査期間中の日々のコミュニケーションは、短期海外留学と同様の効果が得られる。また、ネイティブ審査官による、フォーマルかつ格調高い専門的英語の質疑に直に接する機会は、将来的に国際的なキャリアパスを考えている職員にとって、貴重な財産となるであろう。他国の税務職員や審査官たちと、あまり立場を気にせず自由に議論ができるのも、得難い経験である。国際会議のように、JAPANの発言として議事録に不用意に残されてしまい、あとあと気付いて愕然とする心配もない。英語力を不安視する方が多いと思うが、ネイティブと同じような英語レベルは、日本人には絶対に無理だし期待もされていない。「非英語圏出身ですが、何か?」と開き直って、審査のための最低限のコミュニケーションさえ取れれば、あとはリーダーや同僚の審査官が助けてくれる。むしろ、我々日本人に求められているのは、物事を徹底的に突き詰める分析力であろう。それに、欧米人中心の審査チームの中に「謎の笑みを浮かべる東洋人」が加われば、ビジュアル的にもインパクトがあるし、多様性のアピールにも一役買うことができるかもしれない。きっと。「よっしゃ、いっちょやってみるか!」と、チャレンジ精神旺盛な若手職員が現れてくれることを、切に願う。

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