ファイナンス 2022年6月号 No.679
38/106

*9) 税務当局登録済み納税者で無申告(申告書未提出)の意。当局が把握していない無申告納税者への対応については、POA1の指標2(潜在的な納税者・税源に関する情報)にて評価される。(指標2) POA4-13 無申告納税者の管理とフォロー 34 ファイナンス 2022 Jun.検証作業が非常に厄介で大きな誤算であった。当初提出されたデータでは、数百社ある大規模法人の期限内申告率はあまりよろしくない数値である。そこで、大規模納税者部門の職員を呼んでインタビューをしたところ、「いえいえ、全ての大法人は期限内にきちんと申告しております!」と、堂々と提出データと矛盾した回答をしてくる。「ではなぜデータ上の期限内申告率はこんなに低いのか?」と厳しく追及しても、「なぜそうなっているのか、よくわかりませ~ん」と全く話が嚙み合わず、もはや禅問答である。脱力感がみなぎっていく中、リーダーからヘルプが入り、「大規模法人の定義をきちんと確認するように」との貴重なアドバイス。大規模納税者部門の話では、大規模法人とは「売上500万以上の特にコンプライアンスが良い法人」とされており、わずか十数社しか存在しないことが判明。では数百社としたデータは何なのかというと、法人全体を所管する法人課税部門によって提出されたもので、そこでは大規模法人の定義は「売上100万以上」とされていた。要するに、税務当局内の部署によって大規模法人の定義が異なっていることが判明したが、一体どういう組織なのか―。審査チーム内で、どちらの定義を採用するか協議した結果、やはり大規模納税者部門の定義を優先すべき、との結論に達し、大規模法人は「期限内申告率100%」として評価することになった。一事が万事こんな感じで、他の税目の提出データも、いちいち担当者を呼んで検証しなければならず、それはそれは骨が折れた。アップ基本となる指標は、「申告期限経過後から何日以内に無申告者*9のフォローアップを行っているか」である。「評価A」は7日以内、「評価B」は14日以内、「評価C」は21日以内、それより遅い場合は「評価D」となる。さらに、「無申告納税者の把握が自動化されていなければ評価D」という追加指標もあり、なかなか厳しい。担当者へインタビューすると、なんと「申告期限経過後3日以内には無申告者へ接触しています!」との素晴らしい回答をもらえたので、その迅速な対応ぶりから当初は「評価A」と考えていた。ところが説明を聞くうちに、どうやら無申告者の抽出は手作業で行っていることが判明してしまった。審査チーム内で協議した結果、「手作業では到底自動化しているとはいえない」との結論に達し、残念ながら悪い評価となってしまった。そもそも“審査マニュアル”に記載されている、指標としての「自動化(Automated process)」の定義が曖昧である。無申告者に対する事務処理が適切にマニュアル化されていれば、自動化ではなく手作業であっても特に問題ないのではないか。ちなみにこれを日本に当てはめてみると、申告事績は電子申告やOCRによりシステムに反映されて無申告者が抽出されることから、把握については自動化しているといえる。しかし、納税者数の規模が大きい国にとっては、無申告者のフォローアップを申告期限経過後から21日以内に実施するのは、いくらなんでも困難なのではないか。したがって、この指標で良い評価を得られるのはICTが進んだ一部の小規模国だけと思われるので、国の規模に応じた弾力的な評価基準が必要ではないか、と感じた。(指標3)POA4-14 電子申告の活用と利用率指標は、「電子申告の利用率」である。「評価A」は85%以上、「評価B」は70%以上、「評価C」は50%以上、それ以下は「評価D」となる。被審査国は、数年前にやっと電子申告を開始したばかりで利用率はわずかであった。そもそもインターネットの国民普及率がまだ5割程度とのことで、それでは電子申告が普及しないのも仕方がない。インフラ整備が追いついていない印象であり、今後の発展に期待したい。

元のページ  ../index.html#38

このブックを見る