ファイナンス 2022年6月号 No.679
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32 ファイナンス 2022 Jun.6 開始ミーティング7 データ検証ミーティング8 各POAの審査9 評価ミーティングり出席しなければ、最も困難なパートを欠席裁判で押し付けられてしまう恐れがある。某国の審査では、5月5日の祝日の夜にプレミーティングが招集されて、日本のゴールデンウイークなど全く考慮してもらえなかった。審査官の人数にもよるが、一人の審査官は、通常一つか二つの審査項目(POA)を担当する。筆者は新人審査官ということで、有難いことに優先的に担当するPOAを選ばせてもらえたが、後述するように、この選定で痛恨のミスを犯すことになる。被審査国の税務当局幹部や担当職員、審査チームのリーダー及び各メンバー審査官、TADAT事務局の職員など、関係者一同が初めて正式に顔を合わせるオープニング・セレモニーである。審査チームのリーダーによる開始宣言から、各参加者の挨拶及び自己紹介のあと、当局長官からのウエルカム・スピーチに続き、リーダーからはTADAT制度や向こう三週間にわたる審査スケジュールについて詳細な説明がなされる。某国の長官は日本のファンとのことで、いきなり日本語で「こんにちは」と話しかけられた。また、他の審査官へは「Mr.○○」なのに、私だけ呼称が「Professor」だったのも、ちょっと嬉しかった。ミーティングの直前には膨大なメールのやり取りが始まる。ほとんどは無用の連絡事項であるが、その中には、「緊急!長官の都合で急遽予定より30分早く開始!」などの極めて重要な連絡もあるので、あらゆるメールにしっかりと目を通さざるを得ず、確認だけで忙殺される。なお、審査期間を通じての全てのメールのやり取りは、合計で400通を超えていた。Web会議システムによるオンライン・ミーティングのため、初日は(1)長官挨拶、(2)POAの審査、(3)審査官のみの打合せ、と三つのバーチャル・ルームに時間を置いて入室することになった。それぞれ異なるIDとパスワードが設定されており、サインイン情報は直前にメールで送られてくるので、混乱してなかなかログインできなかった者もいた。本来の趣旨は、事前質問状で提出された数値データの中身について検証するためのミーティングであるが、審査開始時点ではまだ提出されていないデータが多い。このため、未提出のデータが一体いつになったら提出できるのかを、被審査国当局に確認するためのミーティングともいえる。なお、実際のデータ中身の検証は、後述するように相当の時間と労力を費やすことになる。9つの審査項目(POA)について、各担当審査官がリード(司会進行役)となり、“審査マニュアル”記載の32の指標に照らし合わせながら、事前質問状にて得られた回答の不明点などについて、当局担当者へインタビューや追加の資料請求などを行う。一つの項目の審査時間は原則2時間しかないため、リードを行う際には、質問内容を整理して効率よくインタビューしなければならない。そのためには、事前に入手した膨大な資料を徹底的に読み込んで周到に準備をしておく必要がある。審査時間内に必要な情報が得られなければ正しい評価を下すことができないため、TADATにおいて審査のリードは最も緊張する業務である。なお、時間内に情報を得られなければ、後日に改めて回答を求めるので、審査日程にはある程度の予備日が組み込まれている。ネイティブ審査官によるリードでは、議論が白熱して終盤に時間が足りなくなると、非英語圏の審査官への気遣いを全く無視した超早口の英語になってしまい、内容についていけなくなる。各POAの審査の後は、被審査国の当局職員は参加することができない「審査官のみの評価ミーティング」が別途開催される。ここでの協議の結果、各審査項目についてAからDまでの評点が下される。最低評価のDを付す場合は、特に慎重に議論がなされる。リード担当の審査官が、自ら下した評点に関して、リーダーや他の審査官へ理由を説明してコメントを求める。評価内容について意見が分かれた場合には、「○○国の審査ではこうだった…」「××国の場合では…」など、具体的なコメントを出せる経験豊富な審査官の意見が尊重される。

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