ファイナンス 2022年6月号 No.679
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*7) TADAT Leadership Workshops(https://www.tadat.org/workshops)ファイナンス 2022 Jun. 31途上国の税務行政を診断する2 審査チームの組成3  事前質問状(Pre-Assessment Questionnaire)の送付4 参考資料の提出要請5 プレミーティング被審査国当局の担当職員にTADATの制度をよく理解してもらうために、通常は審査前に「TADAT研修」が実施され、審査チームのメンバーが講師を務める。この研修は、当局職員と審査チームの間のアイス・ブレイキングの役割も果たす。審査開始の2ヶ月前に組成される。まずはリーダーの任命であり、「TADATリーダーシップ・ワークショップ」*7を修了した経験豊富な審査官の中から選定される。これまで出会ったリーダーたちは皆とても親切で、新人審査官である筆者に手厚いサポートをしてくれた。次に審査官の任命であるが、審査チームの人数は被審査国の規模によって異なり、筆者の経験では4名の場合もあれば7名で審査した国もあった。英語圏の元税務職員であるIMF職員を中心として審査官は構成されるが、多様性を持たせるためか、前述のTADAT審査官リストの中から、世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関の職員や、筆者のように現職の税務職員が選定される場合もある。非英語圏の国の審査は英語通訳を介して行われるが、やはり現地語を理解できた方が望ましいので、例えばスペイン語圏の国の審査には、同じスペイン語圏からの審査官が多く採用される傾向がある。TADAT審査官リストを見ると、日本にも30人以上「有資格者」が存在するようであるが、なぜ私が選ばれてしまったのか? TADAT業務では最低でも1ヶ月以上は拘束されてしまうので、「最も暇そうな職員」に声をかけたことは想像に難くない。TADATの評価を下すために必要な情報について、9つの審査項目(POA)及び32の指標に基づいた事前質問状を作成し、回答を被審査国の税務当局へ依頼する。同時に、重要文書(Key Documents)及び数値データ(Numerical data)の提出も要請する。主な重要文書は以下のとおり。- 直近2年分の税務当局の年次報告書- 最新の戦略プラン及び長期改善計画- 組織図及び主要な部署の業務説明- 納税者憲章主な数値データは以下のとおり。TADAT様式のフォーマット表に記載してもらう。- 過去3年間の税目別税収- 過去3年間の登録納税者数の推移- 主要税目ごとの申告件数及び期限内申告率- 電子申告及び電子的納付手段の利用率-  期限内納付率、滞納残高の推移及び長期滞納の割合- 不服申立て処理件数及び終結までの時間- 電話税務相談の件数及び応対に要した時間審査開始の1ヶ月前が提出期限だが、経験上、期限内にはなかなか入手できない。重要文書以外に、審査のために必要な資料についても適宜提出を要請する。具体的には、税法・通達等の関係法規、事務提要(マニュアル)、事務フロー図、各種広報文書、会計検査院の検査結果報告書などである。当局のデータベースや処理手続き等を確認するために、業務用PCの作業画面のスクリーンショットを送ってもらうこともある。提出された資料は逐次蓄積されていき、審査項目ごとに整理されてデータフォルダに保存される。審査官は、提出された文書や資料を随時参照し、審査や評価に活用することができる。保存資料は最終的には膨大なデータ量となり、タイトルはリスト化され、「証拠書類(Source of Evidence)」として審査報告書の巻末に一覧が添付される。全ての審査官が、オンラインの画面越しではあるが、初めて一堂に会して顔を合わせてお互いに自己紹介をする場である。その主な目的は、9つの審査項目(POA)やその他の作業についての「分担」の決定である。つま

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