ファイナンス 2022年6月号 No.679
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(写真)マレーシアでの研修風景。講師っぽく立っているのが筆者。 30 ファイナンス 2022 Jun.1 被審査国の決定査に参加する機会にはなかなか恵まれなかった。ところが、税務大学校で実施されたような「TADAT資格取得研修」が2019年の12月にマレーシアで開催されることになり、調子に乗ってその研修講師を引き受けてしまった。研修生はマレーシア当局の職員に限らず、アジアの周辺国からも受講希望者を受け入れるという。筆者にとっては、資格取得のために勉強した知識を、もう一度ブラッシュアップできる良い機会である。しかし冷静に考えてみると、TADAT審査官を一度も経験したことがない「ド素人」に偉そうに教える資格があるのだろうか。例えるなら、自動車免許取得後に一度も運転したことがないペーパードライバーが、車の運転方法を教えるのと同じではないか、といった素朴な疑問が、現地に到着してから沸々と湧き上がってきた。オーストラリア人の同僚講師に相談したところ、「実は俺だって審査官なんてやったことないんだから、余計な心配するな!」との妙に説得力がある激励をもらい、何とか無事に四日間の研修講師を乗り切った。しかし、約半数の受講生が「最終試験」に不合格となってしまい、講師としての責任を痛感した。なお、不合格者については追試が実施され、結果的にほとんどの受講生が合格したそうである。まずもってPCのスクリーンでは細かい文書が読みTADAT審査の流れとは?2020年以降、ようやく実際の審査に参加する機会が与えられ、これまで三か国のTADAT診断業務を経験させていただいた。残念ながらコロナ禍ということもあり、現地当局を訪問する機会はなく、全て「オンライン審査」方式で実施された。これはこれで、かなりのハンディキャップであった。づらい。そこで、Ctrl キーを押しながら + キーを押して画面を拡大するという高等テクニックを覚えた。また、被審査国は開発途上国であるため、通信環境や音質が不安定であり、ただでさえ英語では難しいのに余計にコミュニケーションが取りづらくなる。厳しい質問をすると、なぜか相手の回線だけ突然落ちることもあった。オンラインでは基本的に、一人ずつ順番に発言することになるので、不明点があってもその場ですぐに確認するのが難しい。よく分からないまま審査が先に進んでいくのは非常にストレスを感じた。さらに、発言者が一体誰なのか特定できない場面もあれば、ミュート状態に気付かずに口パク映像を延々と流し続ける者もいた。実は筆者は、TADATとは別に、2019年にOECDの「税の透明性と情報交換に関するグローバルフォーラム」にて、某タックスヘイブン国の情報交換制度に関するピアレビュー審査官もやらせていただいた経験がある。その頃はまだコロナ前だったので、実際に現地の当局を訪問して対面審査を行い、十分なコミュニケーションを図ることができた。机上に並べた各種の関連書類を、参加者同士で確認しながら、ホワイトボードに問題点を書き出して、多人数でワイワイガヤガヤと議論したのは、今思うと、オンラインよりもはるかに幸せな審査の時間であった。海外出張してしまえば物理的に日本から離れるので、通常業務からは切り離されて審査に集中することができるが、オンラインではそうはいかない。被審査国と日本との間には時差があるので、スケジュールによっては夜中の2時過ぎまで審査に参加し、数時間の仮眠をとってから朝6時に起床して出勤した日もあった。前置きが長くなってしまったが、TADAT審査の流れについて説明したい。税務行政診断を希望する国はTADAT事務局に申請し、年間計画に基づき審査スケジュールが決定される。なお、途上国に限らず先進国でも診断を受けることは可能である。

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