ファイナンス 2022年6月号 No.679
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ファイナンス 2022 Jun. 21(3)増資規模と日本の貢献額インフラ投資」の重要性を指摘した。その結果、IDA20においては、質の高いインフラ投資の開発・ファイナンス・実施にあたって、透明性等の観点を含めたガバナンス上の制約を特定するための支援を行うこととなっている。また、通信網等のデジタルインフラをはじめ、電力、水道、交通といった重要基幹インフラや、教育や保健等の社会サービス提供のためのインフラ等を含め、あらゆるインフラ整備にあたってデジタル化が重要になっている。今回の増資交渉においては、デジタル化の利点が適切に発揮され、その成果が失われることがないようにするためには、サイバーセキュリティやデータ保護の観点を考慮することが不可欠であると主張した結果、IDA20においては、デジタルインフラへの支援にあたってサイバーセキュリティの観点を踏まえること等が重要政策に盛り込まれている。さらに、昨年11月の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)開催に注目が集まるなど、近年気候変動分野への関心が高まっているが、気候変動対策においては、温室効果ガス排出量削減に資する再生可能エネルギー等への投資といった「緩和」の観点に加え、気候変動により頻度と深刻さが高まる自然災害への対応として、防災や強靭化をはじめとする「適応」の観点が重要である。防災は日本がかねてより重視してきた分野であり、これまでも途上国における防災計画策定等にあたって、日本の知見を共有するなどして貢献してきた。今回の増資交渉においても防災や強靭化を含む「適応」の重要性を強調した結果、IDA20においては、IDAの支援に占める気候変動関連資金の割合を35%まで増加させるとの目標とともに、そのうちの50%は「適応」に資するものとするとの目標が設定されたほか、災害リスク管理を含むIDAの支援額や減災を制度化した国数が成果測定目標に掲げられている。ウ 債務の透明性・持続可能性の向上債務の透明性・持続可能性の向上は、日本がIDA20増資交渉の中で最も重視した点である。近年、新興債権国や民間債権者による低所得国への貸付が拡大する中、一部の非譲許的な貸付や不透明な貸付が、低所得国の債務持続可能性が適切に考慮されずに行われ、途上国における債務の持続可能性への懸念が高まっていたが、COVID-19により途上国の債務状況が一層悪化した。また、一部の債権国が、貸付データの提供を行わず、不透明な担保付借入やデータ共有の妨げとなる秘密条項を使用しているために、債務の透明性が十分に確保されず、債務の持続可能性の正確な分析が妨げられている。こうした状況に対応するため、既に債務脆弱性を抱えてしまった国については債務持続可能性を回復するための取組を行うとともに、今後債務脆弱性を抱えることがないようにする観点からは、平時から債務の透明性を高め、債務状況を正確に把握し、借入国と債権者双方が借入・貸付に係る判断を適切に行えるようにすることが重要である。これは、途上国への安定した投資資金の流入、ひいては、持続的な経済成長に繋がるものである。こうした考えの下、日本が、債務の透明性・持続可能性の重要性や、そのために借入国と債権者と国際機関の全ての関係者の取組が不可欠であることを一貫して主張し続けたことにより、IDA20においては、包括的な債務レポートの公表に向けた債務国に対する支援を行うことが重要政策に掲げられるとともに、IDAが債権国間の債務データ共有の促進に取り組むこととなった。政策面の議論と並んで、増資交渉のもう一つの大きな目的は、当該増資期間における支援規模と各国の貢献額について合意することである。同じ世界銀行グループのIBRDの増資においては、世界経済に占める各ドナー国の経済規模等を踏まえた一定の方程式に基づいて、各国による追加拠出の割当がなされるのに対して、IDA増資においては、各国が、自国の財政状況やIDAの今後3年間に行う支援の内容等を踏まえて、任意に貢献額を決めることとなっている。IDA20の増資交渉においては、COVID-19対応を含めた低所得国の大きなニーズが見込まれる一方、日本を含む多くのドナー国が厳しい財政状況に直面する中、増資が1年前倒されたこともあり、支援規模やドナー貢献額については、増資交渉全体を通して活発な議論が展開された。最終的には、世界経済全体の回復

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