ファイナンス 2022年6月号 No.679
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*6) 例えば、欧米の主要ドナー国などは、気候変動・生物多様性、ワクチン支援、危機への備えやジェンダーなどの分野への支援の重要性を主張した。*7) 人的資本以外には、気候変動、ジェンダー、脆弱性・紛争・暴力、雇用と経済変革の4つがある。 20 ファイナンス 2022 Jun.(2)重点政策ア  COVID-19への対応やUHCの推進を含む保健システムの強化UHCの推進をはじめとする国際保健は、戦後早期に国民皆保険制度を導入し医療システムを整備してきた日本として、従来から国際的な開発支援の場において議論をリードしてきた分野であり、日本の経験を役立たせることができる分野である。足下では、COVID-19の収束に向けて、ワクチンの調達・普及や医療体制の強化といったCOVID-19対応を更に加速させる必要があるとともに、より長期的には、日本がかねてよりその重要性を主張してきたUHCの推進等を通じて、将来の保健危機への予防・備え・対応を強化することも不可欠である。増資交渉においてこうした重要性を指摘した結果、IDA20においては、変異株の連鎖を防ぐために重要な、途上国におけるワクチンの普及や、UHCの推進を通じた保健システムの強化のための支援が行われることとなった。加えて、保健のほか、栄養や教育といった観点も含めた人的資本の開発は、途上国の持続可能で包摂的な成長に不可欠である。そうした中、IDA20においては、支援に当たって重視される分野の柱*7の一つに人的資本が加わった。これを受け、栄養改善や、COVID-19によって失われた教育機会や雇用の回復のための支援も行われることとなっている。イ  質の高いインフラ投資の推進・デジタル化の加速・自然災害に対する強靭性の構築日本は、途上国の持続可能で自立的な発展のためには、発展の基盤となるインフラが良質なものである必要であるとの考えの下、2016年の日本議長国下のG7で「質の高いインフラ投資」を世界に打ち出し、2019年の日本議長下のG20において、インフラ投資におけるライフサイクルコストを考慮したvalue for moneyの実現、環境・社会配慮、自然災害に対する強靭性、透明性、ガバナンス(債務持続可能性等)等の要素を組み込んだ「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を取りまとめた。IDA20の増資交渉においても、日本は「質の高い況の中、IDA19の3年目の資金が不足し、低所得国のニーズに応えられなくなることが見込まれたため、IDAはIDA19への追加拠出やIDA20の前倒しの議論の開始を企図したが、当初多くのドナー国が極めて慎重な姿勢を示した。そうした中、日本は、2020年10月の世界銀行・IMF合同開発委員会の機会に、各国に先駆けて麻生財務大臣(当時)から、COVID-19からの復興段階における需要も見据えつつ、持続的な成長の達成に必要な資金の確保に向け、早急に議論を開始し、国際社会が一体となって取り組むことが重要であることを訴えた。このような日本の働きかけにより、IDA20の前倒しに向けて議論が開始され、2021年2月にIDA Deputies間で合意され、同年4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議及び世界銀行・IMF合同開発委員会のコミュニケにおいてこれが歓迎された。世界の開発課題は多岐に亘っており、IDAの支援分野も非常に広範なものとなっている。そうした中で、各国ともに、国内への説明も念頭に置きながら、今後3年間のIDAの支援において自国の優先課題が重点的に支援されるよう、事務局や他の加盟国を巻き込みながら交渉を行っていく。IDA20においても、どの分野を重点政策とするかについて活発な議論が行われた*6。こうした中で、日本は、IDAの主要ドナー国として、政策面においても増資交渉の議論を主導した。特に、COVID-19への対応やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進を含む保健システムの強化、質の高いインフラ投資の推進、デジタル化の加速、自然災害に対する強靭性の構築、債務の透明性・持続可能性の向上といった分野については、多くの加盟国がその重要性を認識し、IDA20の重点政策に位置付けられた。以下では、日本として重点を置いた上記の分野に着目して、IDA20の政策面における主な内容を紹介することとしたい。

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