ファイナンス 2022年6月号 No.679
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3IDA20増資交渉IDAの増資交渉は、低所得国支援に係る今後3年間のアジェンダについて合意形成を行うものであり、更にその資金規模の大きさからも、国際的な開発支援の方向性の議論に与える影響力は非常に大きいものとなっている。そのため、IDA増資交渉は、途上国の開発に携わる関係者にとって最も重要なイベントの一つとなっており、昨年のG7・G20等においても、IDA20の成功裏の合意への期待に言及されていた。2IDAの概要まずは、IDAの概要について概観したい。世界銀行グループの中核機関のうち、国際復興開発銀行(IBRD:International Bank for Reconstruction and Development)は、中所得国などに準商業ベースでの融資を行っているのに対し、IDAは、加盟国からの出資金を主たる原資として、特に所得水準の低い途上国に非商業ベース(超長期・低金利)での融資や贈与(グラントの提供)を行っている。IDAが安定的に低所得国に対する支援を行っていくためには、加盟国からの継続的な資金拠出が必要とされることから、IDAでは通常3年間を1つの期間として資金計画が立てられ、加盟国からの追加拠出の規模や資金の使途等に関する増資交渉が行われることとなっている。昨年12月に交渉が妥結したIDA20については、2022年7月から2025年6月までの3年間を対象としたものとなっている。 *3) IDA18における市場からの資金調達の導入に関する議論については、山下(2017)を参照。*4) 危機対応を目的とする危機対応ウィンドウ、難民関連支援を目的とする難民・受入コミュニティウィンドウ等*5) 従来、債務持続可能性の分析が黄信号(債務リスクが中程度)の国に対する支援は、半分がグラント、半分が融資(満期38年(うち据置6年)・無利子(手数料0.75%のみ))であったが、IDA20では満期50年の融資に基本的に一本化された。債務持続可能性の分析が青信号(債務リスクが低い)の国については、従来から供与されていた満期38年の融資が維持されている。このほか、COVID-19への対応のため、IDA20では満期12年の融資も供与されることとなった。なお、所得水準が一定水準に達し、IBRDからも一部借入が可能な国(通称、ブレンド国)に対しては、条件をやや厳格化した融資が行われる。ファイナンス 2022 Jun. 19(1)IDA20の1年前倒しIDAの財源は、加盟国からの出資や融資による貢献のほか、過去のIDA融資の返済などの内部資金、更にIDA18で導入された市場からの資金調達*3等となっている。こうして集められた資金が、IDA20では74か国の低所得国の開発支援に活用される。IDAによる支援は、使途が定められていない国別配分と、使途が限定されている特別枠*4に分配されることになり、IDA20では全体の7割近くが前者の国別配分に割り当てられる計画となっている。国別配分は、政策・制度環境の良好度(パフォーマンス)が高い国、人口が多い国、所得水準が低い国、に重点的に配分されるように設定された計算式(PBA(Performance-Based Allocation))に基づき各国に割り当てられる。割り当てられた資金は、被支援国の所得水準や債務持続可能性を踏まえて、融資又はグラントの形で供与されることになる。例えば、世界銀行と国際通貨基金(IMF)が行う低所得国向け債務持続可能性の分析で赤信号(債務リスクが高い)又は過剰債務と判定された国に対しては全額グラントによる支援が行われる。その他の国に対しては、小国向け支援の例外を除き、融資による支援が行われる*5。IDA20増資交渉は、昨年4月の第1回交渉会合を皮切りに、6月に第2回、10月に第3回の交渉会合が実施され、その他大小様々な非公式会合やパブリック・コンサルテーション等を経て、12月14・15日の最終会合で合意に至った。最終会合は、IDA20の議論を当初から主導してきた日本が主催し、オミクロン株の発生に伴う世界規模でのCOVID-19の感染の再拡大により最終的にはバーチャル形式での開催となったものの、岸田総理及び鈴木財務大臣からスピーチ(ビデオ)を行う等、日本のリーダーシップとコミットメントを示した。ここでは、IDA20の1年前倒しの経緯、増資交渉で議論された重点政策と増資規模について概観する。IDA20では、低所得国におけるCOVID-19への対応のため、IDAからの支援に対する需要が一層高まる中、通常3年に一度行われる増資を、IDAの歴史上初めて1年前倒しした。この前倒しの決定にあたっては、日本が重要な役割を果たした。一つ前のIDA増資であるIDA19は、当初2020年7月から2023年6月までの3年間を対象とする予定で、2019年12月に支援規模820億ドルで合意した。その後COVID-19の感染拡大を受け、ワクチン接種や医療提供体制の整備を含む低所得国のCOVID-19対応を支援するため、IDAによる支援の執行の前倒しを行い初年度に350億ドル(当初予定約280億ドル)を活用することを2020年4月に合意した。こうした状

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