ファイナンス 2022年6月号 No.679
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ファイナンス 2022 Jun. 11日本国債IRの活動を通じて海外投資家の地域別分類の投資目的は様々です。数千億~数兆円の日本国債を安定的に保有する中央銀行などのリアルマネー投資家も相当数います。そこで今回は、海外投資家の日本国債への投資目的を、独自に次の4つに分類し、その概要を紹介させていただきます。(1)収益の追求(2)キャッシュの管理(3)資産負債管理(ALM)(4)流動性規制対応、担保需要等1つ目は「収益の追求」についてです。多くの海外投資家は、利息収入やキャピタル・ゲイン(売却益)狙いで、様々な投資戦略により日本国債に投資しています。最も多く聞くのが、「日本国債市場は低金利かつ低ボラティリティの環境下であるものの、保有するドル等の外貨から通貨ベーシススワップを利用して日本国債に投資すれば、プレミアムを得られ日本国債への投資妙味がでてくるため、短中期の日本国債に投資している」という意見です。この投資戦略だけを採用しているとは限りませんが、ここ2年間の日本国債IRを通じ、外貨準備を運用する中央銀行、国際機関、年金基金、資産運用会社など幅広い業種の海外投資家から同様の意見が聞かれました。次によく聞かれたのが、債券のインデックス運用です。特に、一部の中央銀行や資産運用会社等は、債券インデックスをベンチマークにして、自社の債券ポートフォリオと債券インデックスとの価格変動を近づけるよう、債券インデックスの採用銘柄の構成に合わせて日本国債を自社のポートフォリオに組み入れる投資戦略をとっています。このほか、ヘッジファンドは、デリバティブを駆使して積極的にリスクをとったり、比較的短期での投資を繰り返して収益を高めようとしたりすると言われています。2つ目の「キャッシュの管理」については、多額の現預金を保有する海外投資家が次の投資先が決まるまでの現預金の運用で、比較的リスクが低く、かつ流動性が高い短期債に投資する場合が挙げられます。この場合、基本的には、満期償還後に再投資を繰り返すことが多いです。例えば、現預金が多い海外事業会社はこの目的で日本国債などの債券に投資する場合があります。3つ目の「資産負債管理(ALM)」については、金利変動リスクを軽減させる目的で、バランスシート上の資産と負債のデュレーション・ギャップを埋めるように(特に資産のデュレーションを延ばすために)日本国債を保有する場合もあります。例えば、海外の生命保険会社は当該目的で超長期の日本国債を購入する場合があります。4つ目の「流動性規制対応、担保需要等」については、海外の銀行がバーゼル規制で求められる流動性カバレッジ比率を満たすため、算出時に分子に計上される適格流動資産(High Quality Liquid Assets; HQLA)として日本国債を保有することもあります。また、海外の金融機関の日本支店が、緊急時に日本銀行からドルを調達できるよう日本銀行に対する差出担保用に日本国債を保有することもあります。なお、日本の金融機関の海外支店がFedからドルを調達する目的で、Fedに対する差出担保用に日本国債を国際決済機関の振替口座に保有する場合もあります。このように、海外投資家の日本国債への投資目的は様々であるため、それぞれのニーズに応じ、きめ細やかな情報提供をすることが国債の安定的な保有につながると考えています。なお、「市場が不安定になった時の海外勢の逃げ足は速い」という意見も聞かれることがありますが、全ての海外投資家の投資行動を一律に論じることはできないと考えられます。例えば、一部の中央銀行は為替政策のために円貨を保有し、その運用として日本国債に投資しています。また、短期債に投資する海外投資家も、短期売買を繰り返すのではなく満期まで保有し、満期償還後に再投資を行う場合が多いほか、資産負債管理(ALM)や適格流動資産(HQLA)管理を目的に中期~超長期債に投資する生命保険会社や銀行等においても、安定的な保有が見込まれます。振替制度上、日本国債の最終投資家の地域別分布を網羅的に把握できませんが、国際決済機関(カストディアン)を含む保有者の地域別分類については、日本国債を含めた、居住者の発行する債券全体における保有者の国籍別分類が、国際収支統計(「証券投資等残高地域別統計(負債)」財務省、日本銀行)で公表

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