ファイナンス 2022年5月号 No.678
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ファイナンス 2022 May. 71 職員トップセミナー 未来の車社会を象徴する新しい言葉がCASEとMaaSです。CASE(Connected-Autonomous-Shared-Electric、ケース)はドイツのダイムラー社が2016年に発表したビジョンで、Connected(世界中の車がインターネットでつながること)、Autonomous(無人自動運転)、Shared(シェアリングサービス)、Electric(電動化)の4つのキーワードの頭文字をとったものです。CASEによってMaaS(Mobility as a Service、マース)という新たな巨大産業が生まれるでしょう。高性能の二次電池、EV、AIなどあらゆるものがインターネットでつながるIoT、これらの技術が合わさることで、現代の常識では考えられないような、従来の価値観を覆す破壊的で大きな変革が起ころうとしています。広く社会全体に影響を与えるET革命(Energy & Environment Technology革命)において先陣を切るかのように進化しているのが車です。ET革命によって将来、人工知能AIで自動運転を行う電気自動車AIEVがレストランや映画館、病院などの施設やサービスと利用者を直接結びつけ、経済のハブとして重要な役割を担います。AIEVをみんなで共有することで個人の費用負担は七分の一にまで下がりますし、都市部だけでなく、過疎化地域の新たな交通手段としても活躍が期待されます。さらにAIEVは社会全体に張り巡らされた蓄電インフラとしても機能し、これらを通して行われる電力売買は大きな経済効果をもたらします。こうした変革がもたらす社会的メリットは地球環境への大きな貢献です。さらにシェアリングにより費用が安くなり、利便性が高まるといった個人的なメリットもあります。MaaSの具体的な議論はこれからになりますが、世界が一変するような大きな変革になるでしょう。2.サステナブルな社会の実現に向けて「リチウムイオン電池の開発」がノーベル化学賞を受賞した理由は大きく2つあります。1つはIT社会の実現に大きな貢献をしたということ。もう1つは、環境・エネルギー問題の解決に向けて大きな可能性を秘めている具体的な技術の1つであるということです。サステナブルな社会の実現に向けて、リチウムイオン電池が大きく貢献することを期待されています。研究開発を成功させ、製品として世に送り出すには3つの関門を乗り越えなければなりません。1つ目の壁は基礎研究の段階の「悪魔の川」、2つ目の壁は開発研究に進むと待ち受ける「死の谷」です。そして3つ目の壁は「ダーウィンの海」。マーケット立ち上げまでの苦難です。この3つの関門を乗り越えて初めて商品として普及していきますが、私にとっては「ダーウィンの海」が最難関でした。良い研究をしてもマーケットがなければ何にもなりません。現在、カーボンニュートラルに向けてイノベーションが進展していますが、基礎研究についてはすでにブレイクスルー済です。そして、私にとって最難関だった「ダーウィンの海」は、カーボンニュートラルに関しては乗り越えられることが保証済みです。新しい技術が生まれて地球環境問題を解決し、カーボンニュートラルの実現につながることをマーケットは待ってくれています。残るは「死の谷」ですが、量産に伴う大きな壁さえ乗り越えればカーボンニュートラルは実現できそうだというのが私の見方です。ただ、大切なのは世界に先駆けてやることです。遅れると完全に後追いになってしまいますので、グリーンイノベーション基金でのプログラムが将来の日本にとって重要な鍵を握っていると思います。カーボンニュートラルを実現するために必要な項目として、まずは一次エネルギーです。一次エネルギーを日本で最大限普及させる必要がありますが、風力発電、あるいは太陽光発電は、いずれも気象状況や天候3.カーボンニュートラルへの道筋2050年カーボンニュートラル目標を実現するために、グリーンイノベーション基金(研究開発・実証から社会実装までを見据え、官民で野心的かつ具体的な目標を共有し、企業等の取り組みに対して10年間の継続的な支援を行う国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構に造成された基金)によって現在18の事業が進行しています。「グリーン電力の普及促進分野」「エネルギー構造転換分野」「産業構造転換分野」の3つのワーキンググループで詳しい事業目標や配分金額などの詳細が検討され、具体的に動き出しています。

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