ファイナンス 2022年5月号 No.678
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70 ファイナンス 2022 May.講師演題さらに今後、リチウムイオン電池はカーボンニュートラルの実現に向けて重要なキーデバイスになると思いますので、そういった意味合いから今、世界が動いているカーボンニュートラルへの道筋についてお話します。二人目の受賞者はジョン・グッドイナフ(John Bannister Goodenough)博士で、1980年にリチウムイオン含有金属酸化物を世界に先駆けて発見しました。三人目の受賞者である私は、グッドイナフ博士が見出した正極材料に対してカーボン材料を負極にする組み合わせを見出して、なおかつ、どういう構造のカーボンが最適か研究し、新しい二次電池の原型を世界で最初に提案しました。1985年のことです。リチウムイオン電池は、3つのノーベル化学賞にサはじめに本日はリチウムイオン電池開発の経緯と、こういった新しい製品を世の中に広めていくにあたってどのようなプロセスで、どのような研究開発があって実用化に結びつけていくのかというプロセスについてお話したいと思います。1.リチウムイオン電池開発の経緯2019年に私を含めた3人でノーベル化学賞を受賞しました。一人目の受賞者はスタンリー・ウィッティンガム(Michael Stanley Whittingham)博士です。ウィッティンガム博士は1976年、世界に先駆けて電気化学的インターカレーションの原理を電池に応用することを提案しました。ポートされています。1981年に京都大学の福井謙一先生が「フロンティア軌道理論」という新しいセオリーを世界に先駆けて提唱し、日本人として最初にノーベル化学賞を受賞されました。そして、福井先生の受賞から19年後の2000年、白川英樹先生がプラスチックでありながら電気が流れるポリアセチレンという新しい素材を発見し、日本人として二人目のノーベル化学賞を受賞されました。リチウムイオン電池はこのポリアセチレンの研究から始まりました。よく産官学の連携ということが言われますが、リチウムイオン電池はその良い例ではないかと思います。福井先生の非常にベーシックな研究があり、その研究の成果として白川先生が新素材を発見され、それをどういう製品につなげていくか、これは企業サイドの責任です。産業界にバトンが渡されリチウムイオン電池の商品化が実現しました。福井先生がノーベル化学賞を受賞されてから白川先生がノーベル化学賞を受賞されるまで19年間、そこから私たちのノーベル化学賞受賞まで19年間要しています。ベーシックな研究から実際の製品につながるまで38年間、これがひとつの基本的な図式です。リチウムイオン電池は1991年に商品化されて世の中に出ていきましたが、残念ながらすぐにマーケットが立ち上がったわけではありません。マーケットが立ち上がったのは1995年で、この年はマイクロソフト社のWindows95に象徴されるように、現在のMobile-IT社会に向けて世界中が一斉にスタートを切った年です。IT機器の電源として使われ始めたリチウムイオン電池は、IT社会と一緒に急激に成長していきました。吉野 彰 氏(旭化成株式会社 名誉フェロー)リチウムイオン電池が拓く未来社会令和4年1月13日(木)開催職員 トップセミナー

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