ファイナンス 2022年5月号 No.678
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ファイナンス 2022 May. 67PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 7 (2)インド・ASEANワークショップについて―インドワークショップは2011年、ASEANワークショップは2016年から継続的に行い、議論を深めてきましたが、座長として、これまでの両ワークショップをどのように評価されていますか。す。更に、ASEANの経済規模についても日本の約2倍程度まで拡大すると見込まれるなど、インドとASEAN経済の世界経済における重要性が大きく高まることが予測されています。この予測の大前提は人口動態だと思います。日本の人口が減少する中、インドやASEAN全体で人口増加が続くことを踏まえると、この推計結果は理解できるかと思います。―貿易政策が国家安全保障に非常に深く結びついていることは、特に最近、米国と中国の対立構造が明確になる中において強く意識されています。こうした国同士の対立関係を背景として、本来あるべき公正な貿易関係が歪められているという見方もあるかと思いますが、近年における国家安全保障と貿易政策の関係性についてどのようにお考えですか。これは非常に難しく深刻な問題です。現在の米中関係の背景には中国の台頭があるわけです。これをもう少し深く考えると、近年の中国の台頭が、日本や米国、欧州といった自由主義国陣営との関係性を拡大する形で進んできたことがあります。東西冷戦時代のように資本主義体制と共産主義体制が分離した形で発展してきたのであれば、今のような難しい問題にはなっていなかったと思いますが、現在において、中国経済と自由主義経済とのデカップリングが非常に難しい状況になっているということです。その中で、民主主義 対 専制主義、市場資本主義 対 国家資本主義の対立が起きているわけです。グローバリゼーションが順調に進展していた頃は、日本の「ジャスト・イン・タイム」生産システムが注目されていました。しかし、特に新型コロナウイルスの世界的な拡大に伴い発生したサプライチェーンの混乱以降は、「ジャスト・イン・ケース(万が一の備え)」を重視した生産体制、経営体制に変化しつつあります。例えば、リスクに備えて製品在庫を増加させる、またはサプライチェーンを複数用意する、あるいは地産地消という形でサプライチェーンを短くする、といったことです。サプライチェーンの国内回帰も戦略の一つです。要するに、これまではグローバリゼーションが進展する中で、最適で効率性の高い生産方法がとられていましたが、地政学的なリスク、あるいは、新型コロナウイルスの感染拡大といったリスクが表面化したことで、従来の状況を前提とした最適な生産体制を維持できなくなってきました。これは経済に対して負の影響をもたらし、経済成長を鈍化させます。その負の影響をいかに最小化するか、ということが現在の大きな課題であり、そのためには、国際取引に関連したルールの策定は一つの解決策だと考えられます。究極的に対外的なリスクの排除のみを重視する場合、一国の中で全てが完結する鎖国政策がベストということになりますが、比較優位に基づく経済的なメリットが享受できなくなってしまいます。そういう状況を避けるためには、できる限り多くの同じ考えを持った国々との間で共通ルールを作り、お互いに協調しあうことが重要です。インドやASEANに限らず、そのような問題が我々に突きつけられているのだと思います。私自身、インド経済やASEAN経済の専門家ではありませんので、両ワークショップにおいて、重要かつ関心の高いテーマを設定し、その分野の第一人者の知見に触れることができることは非常に有益だと感じています。特に、インドに関するこういった場が継続的に開催されているケースは少ないと感じています。そういった背景もあり、インドワークショップというと財務総研、という情報が世間に伝わっているようなので、今後もこうしたワークショップを継続していくことが一番重要だと感じています。ASEANワークショップについても、インドワークショップと比較するとまだ歴史は浅いですが、同じ方向に進んでいますので、今後も継続していければと思っています。―続いて、昨年以降実施しているオンライン形式の両ワークショップの開催について伺います。新型コロナウイルス感染症の拡大以降、オンライン方式による

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