ファイナンス 2022年5月号 No.678
70/88

*8) ASEAN10か国の中でCPTPPに参加していない国は、インドネシア、フィリピン、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー*9) APEC(アジア太平洋経済協力)において、CPTPPやRCEPなどを道筋として実現が目指されている包括的な自由貿易圏。 *10) アジア太平洋地域の21の国と地域(エコノミー)が参加する経済協力の枠組み。参加エコノミーは、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港(ホンコン・チャイナ)、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、台湾(チャイニーズ・タイペイ)、タイ、米国、ベトナム。 参考:外務省(APECの概要|外務省(mofa.go.jp))https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/apec/soshiki/gaiyo.html*11) ASEAN10か国の中でAPEC非加盟国は、カンボジア、ラオス、ミャンマー。*12) 日本経済研究センター・長期経済予測(2019)*13) 実質GDP(2014年ドル建て換算)参考:経済産業省(通商白書2021)https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2021/pdf/03-01-04.pdf 66 ファイナンス 2022 May.さくなれば、貿易ルールという枠組みの中にインドを取り込み、中長期的にはインドを含めた自由貿易圏の構築も視野に入ってくると思います。一方、ASEAN全10か国は、RCEPに関してはいずれの国も参加していますが、CPTPPに関しては全ての国が参加しているわけではありません*8。そのため、次のステップはASEAN全ての国がCPTPPに参加する、という形かと思います。アジア太平洋諸国が目指す最終ゴールに、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)*9というものがあり、この地域の国々は既にRCEPからCPTPP、将来的にはFTAAPという流れに向かって動き出していると見ています。もちろん、FTAAPの構成メンバーをどうするのかという点は検討していく必要があります。FTAAPに関しては、APEC(アジア太平洋経済協力)*10に加盟していない国*11などは加盟できないという見方もあります。しかし、CPTPPの延長線上にFTAAPがあるとするならば、現在加盟交渉を進めているイギリスがCPTPPに加盟し地域的な枠組みに関係なく拡大すれば、APECに加盟していない国もCPTPPを起点にFTAAPに繋がることは可能になるのではないかと考えています。―インドやASEANの経済発展は著しいですが、それぞれの国・地域が足元で直面している課題はどういったものでしょうか。また、インドやASEANの世界経済における位置付けをどのように捉えていますか。インドとASEAN双方が現在直面している大きな課題の一つは、新型コロナウイルス感染症からの回復です。そしてもう一つは、米中の対立やウクライナをめぐる国際情勢といった地政学的な問題です。新型コロナウイルス感染症の拡大により発生した具体的な課題の一つは「格差の拡大」です。経済が停滞した点も大きな問題ではありますが、新型コロナウイルスによって深刻な被害を受けた人々と、軽微な影響で済んだ人との格差が大きく広がっています。これは所得格差とも関係しており、医療サービス享受の可否など、健康に大きな影響が出てしまうこともあります。また教育現場では、新型コロナウイルス感染者の増加により対面授業の実施が困難になりましたが、オンライン授業を受講する環境が整わずオンライン授業を受講できない学生も発生するなどして、人材育成が滞りました。経済を動かすのは人であり、質の高い人材が必要です。この人材育成の停滞は、中長期的にインドやASEAN経済にも大きな負の影響を及ぼすのではないかと危惧しています。そして、「米中貿易戦争」については、特にASEANに大きな影響を与えていると考えており、これにはメリットとデメリットの双方があります。例えば、米国が対中輸入を規制したことで、ベトナムをはじめとした一部のASEAN諸国からの対米輸出が増加しており、少なくとも短期的にはASEAN諸国が利益を得ている側面があります。一方、中長期的には、負の影響が出てくるのではないかと考えています。米中の対立が更に深まった場合、ASEANは中国と米国のいずれか一方を選択しなければならなくなる可能性もあります。そこで重要なのは、そこにRCEPやCPTPPをはじめとした国際ルールが存在するかどうかだと思います。もちろんこうしたルールを遵守しない国も出てくる可能性は考えられますが、国際ルールの存在により市場における公正な取引が担保されると考えられます。続いてインドとASEAN経済のプレゼンスについて、民間シンクタンクの予測*12を確認すると、それぞれの足元(2020年)での経済規模*13は、ともに日本の約60%程度です。中国と比較すると、せいぜい20%程度の規模でしかありません。しかし、今後の予測をみると、2060年時点でインドの経済規模は中国の約80%に達するとともに、日本の5倍以上の規模にまで拡大すると見込まれていま

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る