ファイナンス 2022年5月号 No.678
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ファイナンス 2022 May. 65PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 7*3) Goods and Services Tax(物品サービス税)の略。これまでインドの州ごとに異なっていた財及びサービス税の統一を目的に、2017年に導入された全国統一間接税。 参考:ジェトロ チェンナイ事務所(2020)https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2020/08f7580cdf5547df/202003.pdf*4) インドは2019年11月に交渉離脱の意思を示して以降、交渉のテーブルに戻ることは無く、最終的には署名を見送った。*5) 2014年に第1次モディ政権下で掲げられた、製造業振興策。*6) インドにおける農業分野の国内GVA(付加価値合計)に占める割合は年々減少しているものの、就業者に占める農業従事者の割合は、2019年時点において依然として42.6%を占めていた。*7) 米国を含むアジア太平洋に位置する12か国でTPP(環太平洋パートナーシップ)が2016年2月に署名されたが、2017年1月に米国が離脱を表明したことを受けて、米国以外の11か国の間で協定の早期発効を目指して協議を行い、2018年3月CPTPPに署名。同年12月に発効。参考:内閣官房 https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/kyotei/tpp11/index.html成そのものへの関心のみならず、ASEAN自身の人口増加や、それに伴う市場の成長への注目も高まっていました。更には、世界経済の中で存在感を増す中国やインドに挟まれた位置関係にあるASEANの地政学的な重要性の高まりもあったように思います。―両ワークショップの開始から現在に至るまでの間、各地域の状況や問題意識はどのように変化したとお考えですか。まずインドに関しては、GST*3の導入、破産・倒産法の整備を始めとして国内改革は大きく進んだと感じますが、対外開放に関しては期待したほど進んでないという印象を持っています。例えば、RCEPは交渉の最終段階においてインドが離脱*4してしまいましたが、そのままインドを除いた形で発効されています。インドがRCEP交渉から離脱した最大の理由は工業製品と農産品の貿易の自由化が難しかったことだと思います。インドはASEAN、日本、韓国とはすでにFTAを発効させていますので、これらの国々との間ではRCEPでの貿易自由化は問題ありませんが、RCEPの加盟国のうちFTAを締結していない中国、オーストラリア、ニュージーランドとの間での貿易自由化は、輸入の増加により影響が出てくるので問題なのです。中国からは工業製品の輸入が増加する可能性が高いのですが、中国からの工業製品の輸入増加は、インドの工業部門に壊滅的な打撃を与える可能性があり、モディ政権が工業部門の発展を目指して進めている「メイク・イン・インディア*5」政策の実現が難しくなります。さらに、中国からの輸入増加は、すでに大きい中国との貿易赤字をさらに拡大させる恐れがあります。一方、オーストラリアとニュージーランドとの貿易自由化では、農産品や食料品の輸入が増加します。インド経済では農業部門が大きな位置を占めていますので*6、両国からの農産品・食料品輸入の増加はインド経済に大きな被害を及ぼす可能性があります。こうした現状を踏まえると、インドの対外開放は当初期待したほどは進んでいない、という点が私の問題意識です。一方ASEANに関しては、先ほども少し触れましたが、ASEAN自身がRCEPの交渉段階から大きな貢献をしました。発展段階や経済・政治制度が異なる国々との交渉をまとめることは非常に難しいものですが、私は、そのような状況でASEANがリーダーシップを発揮し交渉を取りまとめたと見ており、ASEANは期待どおりの対外開放政策を進めたと考えています。―インドとASEANのRCEPに関連した話題が出ましたが、インドがRCEP交渉から離脱した結果、現在RCEPはインド抜きの15か国の参加で発効している状況です。RCEPに限らず、将来的なインドやASEANを含めた経済関係の重要性についてはどのようにお考えですか。アジア太平洋、あるいはインド太平洋という地域で捉える場合、中国の存在がカギとなります。中国とASEAN、インド、日本というそれぞれの観点から考える必要があるわけです。現在、これらの国・地域を含む貿易の枠組みについては、RCEPとCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)*7といった地域を包摂する枠組みが二つできています。インドのRCEP参加が難しい中、インド太平洋という枠組みを、日本やASEAN、最近では米国も提案しており、政治面・経済面において、インドをどのように取り込むかが重要なポイントとなっています。ただ問題は、現在議論あるいは提案されているインド太平洋の経済枠組みについては、加盟国同士の貿易拡大を目的とする自由貿易協定が想定されていないことです。現状、インドを含めた形で自由貿易ルールを作ることは難しいかもしれませんが、将来的に貿易自由化に反対するインド国内の声が小

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