ファイナンス 2022年5月号 No.678
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ファイナンス 2022 May. 61図表7:キム・ジョンウン体制の下での、北朝鮮の外貨獲得に関連する機構(中嶋(2018)より)人民武力省国務委員会第2経済委員会 金  正  恩 朝鮮労働党計画財政部内閣第39号室第38号室軍偵察総局電子偵察局サイバー指導部「180部隊」貿易会社群(青松連合等)フロント企業フロント企業軍需品調達局朝鮮鉱山開発貿易会社(KOMID)第2科学院貿易会社群*26) 中嶋猪久生『北朝鮮による「マネー」と「石油」のロンダリング―制裁をくぐり抜けてきた手口とその支援主体(特集/拡散金融<2>)』CISTEC Journal No.177、2018年9月なお、北朝鮮の金融セクターについては、以下参照。朝鮮半島経済研究会『朝鮮半島リポート24〜26回:北朝鮮金融業の現状(上・中・下)―「北朝鮮の産業2020」から』日本経済研究センター、2021年6月30日・7月6日・7月13日第99号室軍需工場部南川江貿易貿易会社群〈アジア〉カンボジア、ベトナム、ミャンマー、マレーシア〈中東〉イラン、シリア、エジプト、UAE、ハマス、リビア、イエメン・フーシー派〈アフリカ〉コンゴ、タンザニア、アンゴラ、スーダン、南スーダン、ナミビア、ウガンダ、エチオピア、モザンビークフロント企業武器取引(輸入) ロシア、中国 ドイツ、日本 ウクライナ対外建設指導局万寿台海外開発グループ武器取引(輸出)Korea GeneralCorp.Namgang建設Korea RungradoGeneral Trading大聖貿易総会社 各部局の貿易会社 (朝光貿易等)貴金属水産物銀  行(大聖銀行)石 炭労働者派遣その他業務フロント企業高麗金融合営会社ホテル・レストラン両替店朝鮮人参等レアメタル〈国務委員会〉2016年6月、それまでの国防委員会に代わり新設。北朝鮮の政策指導機関。委員長は金正恩。〈軍偵察総局〉辿って電文送信を止めたりすることはできないのであ〈第2経済委員会〉党と軍の中核組織。通常兵器の製造と販売。軍経済の総元締め。それまで内閣の統制下偽札、偽タバコ、阿片の栽培、麻薬取引のる。要すれば、SWIFTからの排除は特定国の金融機にあった軍需産業切り離し、この委員会の傘中心組織。下においた。核、ミサイル、その他大量破〈第2科学院〉壊兵器関連の輸出で大きな役割をはたして関を丸ごと排除するには極めて有効である反面、ファ武器の開発研究とミサイル部品。技術の輸いる。努光鉄・人民武力省は同委員会の出。委員長で、米朝会談に出席した6人の側近〈朝鮮鉱山開発貿易会社(KOMID〉イン・チューニング(微調整)は効かない措置であの一人。主要な軍需品の調達期間。北朝鮮は武器〈第99号室〉輸出国であるとともに、輸入国でもある。輸る、と言い換えることもできる。対露制裁が話題に海外貿易事務所を統括。金融取引やマネー出入で大きな役割をはたしているのがロンダリングの実行部隊。KOMID。なっている今こそ、その潜在的な威力及び限界の両面につき、正しい理解を持っていなければならない。〈第39号室〉接に開発・研究に携わったりその指揮・監督を行う者外貨稼ぎの統括組織で、年間約50億ドル〈対外建設指導局〉の収入があるという。違法活動をする膨大なだけでなく、その為の資金獲得に携わる者が広く含ま出稼ぎ労働の窓口。公式には約5万人といフロント企業群は重要な資金調達を行っておわれるが、中国やロシアなどへの不法労働り、全て39号室の指揮下にある。39号室者を加えれば、世界中で17カ国に約15万以外の組織による経済活動からの収入の相れる。もっとも、抽象的にそう言うのは簡単であるが、人を派遣。海外に出ている労働者は全員こ当部分は「忠誠資金」として39号室に上の指導局に所属。労働者が稼ぎ出す賃金納される。実際にそのような者を資産凍結等の対象として網羅す(約80%政府が吸い上げる)は2015年の〈第38号室〉ピーク時に約20億ドル、2017年には制裁に金一族の私的利権。ホテル(高麗、羊角るのは、容易ではない。再び、北朝鮮の例に則して見より科された就労制限を受けて7~10億ドル島等)の経営権、外貨両替店や高級レストに減少。ラン(海外に約120店舗)に及ぶ。てみよう。北朝鮮体制内において外貨獲得活動の中核を担うのは、第39号室と呼ばれる、総書記直轄の秘密組織である。しかしこの他にも、国務委員会傘下で軍経済を担当する第二経済委員会や武器取引を担当する人民武力省、朝鮮労働党の内閣・計画財政部等があり、これらが各々多くの海外フロント企業を通じて外貨稼ぎを行っているとされる*26(図表7)。何れの組織が獲得した外貨が、どれだけ兵器開発に振り向けられているかは不明であり、かつ、カネに色目が付かない以上は余り意味がない議論とも言え、資金を遮断しようと思えば、理想的にはこれらの組織に関わるフロント企業を、須らく制裁対象としなければならないだろう。しかし、言うまでもなくそれは途方もなく難しい作業である。一時点での数の多さに加え、専制的な体制を取る国家が国ぐるみで行っている外貨獲得事業において、次から次へと新たなフロント企業を作ることは 4.イラク・国連汚職から生まれたTFS最後に、制裁対象とされた者は様々な方法でアイデンティティーを偽れる為、資産凍結等の措置は効果が212CISTEC Journal 2018.9 No.177ない、とする指摘がある。これは、FATF基準に取り込まれた金融制裁が、特に特定対象金融制裁(TFS)であるということに起因する困難性である(第3レイヤーの問題)。この点、指摘される通りTFSが非常に実施困難な制度であることを、十分に実感を持って認識することから始めねばならない。拡散金融規制について言えば、TFSの対象は核兵器等の大量破壊兵器の開発に関連する個人・団体である。関連すると言っても幅広く、直資料1:首領経済と非合法取引のネットワーク1-3 外貨稼ぎの組織とネットワーク金正恩体制の中で外貨稼ぎに関与する組織は、39号室の他に、4つの組織が直接・間接に関与してい分を号室に上納する義務を負わされている。上記の組織を通じ、非合法取引による外貨稼ぎの概要を次に図式化する(資料1)。

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