ファイナンス 2022年5月号 No.678
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*25) Russiaʼs military aggression against Ukraine:EU bans certain Russian banks from SWIFT system and introduces further 2016年、現地の習俗に則したいでたちでテヘランでのザリーフ外務大臣との会談に臨む、EUのモゲリーニ上級代表(職責はいずれも当時)(出典:Tasnim News Agency, CC BY 4.0)restrictions, Council of the EU Press release, March 2, 2022『ロシア7銀行をSWIFTから排除 EU決定、最大手は対象外』日本経済新聞、2022年3月2日谷口栄治『SWIFTからのロシア銀行排除をみるポイント 〜制裁の実効性確保と国際金融システムへの影響に注目〜(リサーチ・アイ No.2021-073)』日本総研、2022年3月3日吉沼啓介『EU、ロシア7銀行のSWIFTからの排除を採択、3月12日開始』JETRO、2022年3月3日「SWIFTからの排除」の意味 60 ファイナンス 2022 May.抑制するには、FATFのような国際場裡において、かかる単独制裁の過剰な実施による弊害を正面から議論し、メンバー国からの辛抱強いピア・プレッシャー(相互圧力)によって、少しでも一過性の政治的動機に基づく制裁乱発を抑制するよう、働き掛けていくしかないだろう。勿論、FATF自体が世界通貨ドルの力にその実質的強制力の源泉を求めている以上、その所有者たる米国を制御していくのは、容易ならざることは間違いない。しかし、逆に言えば正にそのドルの力が急速に弱まるような事態は、FATFメンバー共通の関心事項として、懸念を呈すべき問題なのである。そして、他方でそれを批判する側も、脛に傷を持つような行動は避けねばなるまい。例えば、EUは2015年以降、FATFから離れた独自の取組みとして、地下資金対策上のハイリスク国のリスト化を行っている。この作業は当初、その選考過程の不透明さが批判された。米国の単独制裁と比せば遥かに影響は小さいものの、このような単独行動は、やはりFATFを軸とした地下資金対策の国際的協調とは、摩擦を引き起こし得るものである。当然のことながら、金融制裁の本質が外交政策であることを考えれば、各国が独自の外交的考慮によって制裁を発動することは、それが須らく批判されるべきものではない。現に、我が国は北朝鮮に対して、国際基準よりも厳しいレベルでの経済制裁を課していることは、既に述べた通りである。しかし、そのような単独制裁は、当該個別国が置かれた状況に照らして適切であり、その適用・解除の基準にも、ある程度一貫した方針があるものとして評価されていなければ、国際社会からの信認は揺らいでしまう。トランプ政権下でのイランへの制裁再適用を巡る一連の経緯は、米国以外の多くの国が、JCPOAの枠組みを一応の機能を果たしているものとして評価していた中で、国内政治向けのパフォーマンスとして捉えられたことは紛れもない事実であり、ドル決済を継続することが、ビジネス・リスクとしてもはっきり認識される事態ともなった。地下資金対策の今後を考えるに当たり、大きな教訓を残した出来事であったと言えよう。補論として、対露制裁に関連して昨今盛んに報じられているSWIFTについて、少しだけ触れておきたい。2022年のロシアのウクライナ侵攻に関連し、EU理事会は3月2日に、ロシアの大手7金融機関を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する旨、決定した。SWIFTは、民間機関でありながら国際決済に係る電文送受信を担う金融の基幹インフラであり、ここから排除された金融機関は、機動的な決済に携わることが困難となる。そして、EUに続いて日米含むG7各国も同様の排除を決めたと報じられているが*25、このような措置を法的に求めることができるのは、EU及びその決定を受けたベルギーのみである。なぜなら、SWIFTはベルギー国内に所在しており、同国の法管轄に服すると考えられているからだ。つまり、EUはその気になればユニラテラルな措置として、SWIFTからの特定国の金融機関を排除することができる。金融制裁という枠組みにおいて、世界通貨ドルの力を源泉とした米国とは全く違う態様で、実はEUが決定的な「切り札」を持っているという事実は、認識しておく必要があろう。他方、このような強い威力にも拘らず、SWIFTからの排除は、ことTFSについては有効なツールとはなり得ない。現在の電文の構造上、送金先の個人や法人を個別に排除したり、ましてやその背後のBOを

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