ファイナンス 2022年5月号 No.678
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*19) John Bolton, The Room Where It Happened – A White House Memoir, Simon & Schuster, 2020, P.365-367*20) 制裁の根拠法である「2012年度国防授権法」には、イラン産原油の購入を相当程度削減した国の金融機関は上記制裁を免除する例外規定があり、日*16) Money Laundering Vulnerabilities of Free Trade Zones, FATF, March 2010*17) Chang-Ryung Han & Robert Ireland, A Survey of Customs Administration Approaches to Money Laundering, Research Paper *18) Hiroshi Watanabe, Usability of US Dollars in the Market – Brief Comments, Bretton Woods:The Next 70 Years, Reinventing No.36, World Customs Organization, March 2016Bretton Woods Committee, September 2015Daniel Depetris, Recalibrating Sanctions to Preserve US Financial Hegemony, Defense Priorities, February 5, 2021Enea Gjoza, Counting the Cost of Financial Warfare – Recalibrating Sanctions Policy to Preserve US Financial Hegemony Defense Priorities, November 11, 2019Dethroning the Dollar – Americaʼs Aggressive Use of Sanctions Endangers the Dollarʼs Reign, The Economist, January 18, 2020本に関しては2018年11月5日から2019年5月2日までの間、この例外規定が適用され制裁が免除されていた。ペルシャ湾に面したイラン・アサルーイェの石油精製施設(出典:Tasnim News Agency, CC BY 4.0)3.米国の単独制裁とドルの地位イラン制裁とドル離れ 58 ファイナンス 2022 May.段階で警鐘を鳴らしている*16。今後、自由貿易区域の統制強化と、その為の国際協力の枠組みを整えることが急務である。なお、FATF基準においても、国境管理の分野について全く沈黙している訳ではない。勧告32はキャッシュ・クーリエ(現金運搬者)に関連し、15,000ドル以上の現金移動については、適切な申告制度とそれに伴う罰則を設けること等を要請している。しかし、これはあくまで法的な制度論であり、実際の水際での検査や、自由貿易区域内の運用の在り方などについては、現状では言及がない。第4章で述べた通り、FATFはその沿革上、今に至るまで各国の金融監督と警察当局を中心としたフォーラムであり、ヒトとモノの管理に係る議論は、必ずしも大きな位置付けを占めてきたとは言えない。対する税関当局の側も、これまで地下資金対策への認識と取組みは、十全とは言い難かった*17。しかし、カネも一たび現金等の有体物の形態を取ればモノの問題であり、それが手荷物として運搬されればヒトの問題でもあるという当たり前の事実を、改めて認識する必要がある。各国の税関・入国管理当局及び関連する国際機関を、これまで以上に地下資金対策を巡る議論に関与させ、要すればその結果をFATF基準の中に反映させていくことが望まれる。次に、世界経済におけるドルの地位がただでさえ凋落傾向にある中で、米国の単独制裁乱発が更なるドル離れを加速させ、ドルの力に頼っている金融制裁の効果は長期的に見れば低減せざるを得ない、という見解が存在する(第2レイヤーの問題)。冒頭述べた通り、経済制裁には特定国が単独で発動するものもあり、その典型が、米国財務省・OFACによる独自の金融制裁である(図表3・第8章参照)。そのような単独制裁は、ドル決済依存へのリスク認識を高め、既に他の通貨や暗号資産に脅かされているドルの地位低下に拍車をかけることで、米国ひいては世界が、金融制裁のツールを失う結果となる、というのが、この主張の眼目だ*18。これは、外部からの指摘というだけに留まらず、米国財務省自身が抱き続けてきた懸念でもある。実際、米国政府において金融制裁の中核的役割を担いつつも、財務省は過度の制裁乱発には難色を示してきた。最近の例では、トランプ政権当時のムニューシン財務長官は制裁に慎重な立場を取ったものの、最終的には外交的要請に押し切られた形となった経緯が、国家安全保障問題担当の大統領補佐官であったボルトン氏によって後に明かされている*19。しかし、ムニューシン長官をはじめとする懸念は、決して杞憂ではない。このような副作用が実際の形で現れたのが、トランプ政権における対イラン制裁の復活に際してであった。選挙期間中からイラン核合意(JCPOA)を批判していたトランプ大統領は、2018年5月、同合意から一方的に離脱し、解除していた制裁を順次再適用した。同年11月には、イランの生命線とも言える石油取引の禁止を打ち出したが、これにより、米国内のみならず日本を含めた他国企業も、限られた例外措置の範囲内を除き*20、原則としてイラン

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