ファイナンス 2022年5月号 No.678
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*13) Kenji Omi, “Extraterritoriality” of Free Zones:The Necessity for Enhanced Customs Involvement, Research Paper No.47, World ファイナンス 2022 May. 57北朝鮮と国境を接する中国東北部の街・丹東。写真奥の鴨緑江に架かる中朝友誼橋を挟み、北朝鮮は目と鼻の先である。日米は同地所在の金融機関に対する送金について、禁止又は厳重確認の要請を行っている(出典:IMAGO Images, 102706892)*12) 竹内舞子『経済安全保障としての拡散金融対策と安全保障管理―省庁や業界の垣根を超えた取組みを―(特集/経済安全保障とリスク管理〈1〉)』CISTEC Journal No.198、2022年3月Customs – FIU Cooperation Handbook, Egmont Group & WCO, March 27, 2020また、輸出入に係る申告価格を偽る等して価値を移転させる手法によるマネロン(TBML:Trade Based Money Laundering)も、税関当局が国内・国際双方のレベルで関与して取り組むべき大きな問題であるが、この点、以下参照。Trade Based Money Laundering – Risk Indicators, FATF & Egmont Group, March 2021APG Typology Report on Trade Based Money Laundering, Asia/Paci■c Group on Money Laundering, July 20, 2012Trade Based Money Laundering, FATF, June 23, 2006Customs Organization, September 2019*14) WCOを中心に策定された、税関実務に係る改正京都議定書(RKC:Revised Kyoto Convention)の定義によれば、「“free zone” means a part of the territory of a Contracting Party where any goods introduced are generally regarded, insofar as import duties and taxes are concerned, as being outside of the Customs territory.」(同議定書付属書D第2章)*15) Special Economic Zones, Political Priority, Economic Gamble, The Economist, April 4, 2015 「自由貿易区域」という抜け穴トバウンドの国境管理はどの国も脆弱である。もっとも、例えば北朝鮮に、日本や韓国から直接に大量の現金を持ち込むことは、現実として難しい。しかし、中国のような友好国を経由することで、持込みは遥かに容易となり得る。この場合国際社会としては、当該友好国に対し、制裁対象国との関係での管理徹底を促し続けることは当然に必要だ。しかしそれに加えて、根本的にはその前段階の元々の「仕出国」のアウトバウンド段階で、執行を強化することが望ましいだろう。各国の現状における、インバウンドとアウトバンド間の投入リソースの著しい不均衡は、経済制裁の実効性を著しく減殺している可能性があることを認識せねばならない。とは言え当然のことながら、各国ともインバウンドと全く同じ人員・体制をアウトバウンドに投じることは、現実的に期待できないだろう。よって、アウトバウンド管理について、制裁対象国への資金移転リスクを貨物・旅客ごとに適切に判定し、効率の良い検査体制を整えることが不可欠である。その為には、国内機関相互及び国境をまたいだ当局間のインテリジェンス情報の、適時の共有も求められることになろう*12。また、カネとモノの接点という意味で、もう一つ大きな問題点として取り上げるべきなのが、自由貿易区域(Free Trade Zone)の存在である*13。これは中継・加工貿易等の目的で用いられる特定のエリアで、特別税関区域(Special Customs Zone)、自由港(Free Port)等様々な呼称と若干ずつ異なる機能があるが、その定義上のエッセンスは、域内において関税が免除されており、かつ税関当局の貨物の管理が弱いことである*14。世界税関機構(WCO)が2018年に行った調査では、回答があった加盟国61か国においてだけでも、これらの機能を有する区域が2,300以上もあるとされており、エコノミスト誌の2015年の調査では、この数字は世界全体として4,300にも及ぶ*15。勿論、関税を免除することは各国の自由であるが、問題は、それらの区域において税関の監視機能が実質的に機能していない例が多く、大げさに言えば、ある種の「治外法権」のような状態にあることである。このような場所では、現金の収受や積荷の入替え、申告価格の改ざん等が容易に行われ得るため、地下資金対策上のもう一つの致命的な抜け穴となりかねない。FATFもかかる事態を憂慮し、既に2010年の

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