ファイナンス 2022年5月号 No.678
60/88

Money Laundering through the Physical Transportation of Cash, FATF, October 2015Money Laundering / Terrorist Financing Risks and Vulnerabilities Associated with Gold, FATF, July 2015Money Laundering and Terrorist Financing through Trade in Diamonds, FATF, October 2013できることとしている。出稼ぎ労働者貴金属等クーリエ物資調達者図表6:経済制裁の各分野の関係性(概念図・筆者作成)*9) Peopleʼs Republic of China, Mutual Evaluation Report, FATF, April 2019, P.107-112, P.195-196*10) 以下は、直接的にはマネロン・テロ資金規制に係る文献であるが、その基本的構造や脅威は拡散金融とも共通するものである。 *11) 関税法第69条の2は、違法薬物、児童ポルノ、知的財産権侵害物品等を「輸出してはならない貨物」として掲げ、これらについては没収の上、廃棄 56 ファイナンス 2022 May.国に対する直近のFATF相互審査においては、拡散金融規制の実施に「根源的な欠陥がある」等として、関連する勧告7・有効性指標11両方について、4段階で最低の評価となっている*9。もっとも、再三述べてきた通りFATFの審査はあくまで技術的な観点に特化して行われ、政治性は排除されるべきというのが理念であって、報告書の中でも政治関係に対する言及はない。とは言え、FATFからこのような明確な低評価を下されていることは、同国の制裁に対する取組みの現状を把握する一助にはなるだろう。そして、中国と北朝鮮は国境を接している。金融制裁に関して言えば、北朝鮮に資金を持ち込もうとした場合、格別に複雑なスキームに頼らずとも、現金や金塊等の価値代替物を、人手を使って越境させることで、比較的簡単に達成できてしまう可能性はある。この点、中国の側が必ずしも意図的にそのような持込みを支援している必要まではなく、取締りに不熱心であるというだけで充分である。経済制裁が、ヒト・モノ・カネに分かれる旨前述したが、これはあくまで便宜的な分類であり、実際には当然ながら相互に多くの重なりがあることに注意しなければならない(図表6)。資金の流れは、ヒトやモノといった有体的な形態を伴っても生じ得るのであり、金融機関間の送金だけを見ていれば良いというものではないのである。現実問題として、国際的な決済システムから実質的に遮断されている北朝鮮にとって、原初的とも言える、現金や価値代替物である金塊等の持込みは、資金獲得の有力な手段と見られている*10。制裁対象国と友好関係にあり、そしてそれが故に制裁実施に不熱心な周辺国を想定した場合、そのような周辺国は、世界全体から制裁対象国に開かれた、資金の抜け穴となる可能性がある。まず、何れの国の税関・入国管理当局も、基本的には輸入・入国といったインバウンドにプライオリティを置いており、輸出貨物・出国旅客といったアウトバウンドには、多くのリソースを割いていない。これは、各国当局の責務が、一義的には自国への麻薬等の禁制品の密輸防止や、関税の適正な賦課徴収といった点にあることを考えれば当然である。我が国の関税法においても、禁制品は国内への持込みが禁止されているのと同様に、国外への持出しも禁止されているのだが*11、その執行の程度には大きな開きがある。海外から帰国した際、空港では必ず手荷物検査を受けるが、出国の時に検査を受けた経験を持つ人は、ほとんどいないのではないだろうか。しかし、各国がそのような不均衡な国境管理体制を取っていたとしても、通常は問題にはならない。なぜなら、ある国にとってのアウトバウンドは受け手国にとってのインバウンドであり、そこで厳格な国境管理上の執行がなされるのであれば、国際社会の総体としては、規制が適正に行われるはずだからである。他方で、拡散金融規制を想定した場合、これは、極めて不都合な真実となり得る。拡散金融規制が対象とする核開発等の資金が、本質的に受け手国自身が裨益する地下資金であって、当該国はその国境管理上の防圧に対し、当然インセンティブを持たない。そうであれば、資金が他国から持ち出される際に、制裁違反が疑われる場合は止めるほかないが、前述の通り、アウヒトカネ現金・モノ

元のページ  ../index.html#60

このブックを見る