ファイナンス 2022年5月号 No.678
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※TFSのみがFATF基準の対象(TFS)*5) 岩沢雄司『国際法』東京大学出版会、2020年3月27日、P.718-729 *6) “The term targeted financial sanctions means both asset freezing and prohibitions to prevent funds or other assets from being *7) なお、現在北朝鮮・イラン両者は、自分たち自身の地下資金対策の取組みについてもFATFから不十分と認定され、ブラックリストに掲載されている。*8) 他方でテロ資金規制については、資金供与の犯罪化及びそれに基づく捜査・訴追といった、マネロン規制の延長上に乗った刑事政策としての制度設計図表2:FATFのマンデートの拡大(再掲・財務省作成)図表3:各種制裁の関係性(概念図・筆者作成)米国OFAC制裁等特定対象制裁金融制裁(カネ)非軍事制裁(ヒト・モノ・カネ)吉村祥子編著『国連の金融制裁:法と実務』東信堂、2018年8月30日、第1章(吉村)made available, directly or indirectly, for the bene■t of designated persons and entities.”(FATF Glossary)今日のFATFという存在の一断面は、この2か国に金融面で、様々な方向性から国際的圧力をかける枠組みであると描写することもできよう。と、元々は外交・安全保障上の措置である金融制裁が混在する構成になっており、混乱を招来している側面があることには注意が必要である。 54 ファイナンス 2022 May.であり、多くの場合まずは非軍事的措置、即ち経済制裁が実施される*5。経済制裁と言っても、ヒトの移動制限やモノに係る禁輸等幅広いが(図表1)、最も効果が高いものとして期待されているのが金融制裁である。金融は経済の血流であり、この流れが遮断されてしまえば、あらゆる経済活動が困難となる。この金融制裁の中にも、銀行間送金の完全遮断や一定の投資活動の規制等、様々な類型があるが、FATF基準の中に取り込まれているのが、特定対象金融制裁(TFS:Targeted Financial Sanctions)と呼ばれるものであり、国全体ではなく特定の個人や団体に限定して、資産凍結等の金融的措置を行うというものである*6。とは言え、これまで安保理決議が出されたTFSの全てが、FATF基準の中に取り込まれている訳ではない。TFSは、これまで多くの個人・団体に対して取られてきているが、前述の通り現時点でFATF基準と関連付けられているのは、アル・カーイダのようなテロリスト等のほか、北朝鮮・イランの2か国に関する個人や団体であり、これらは、いずれも核兵器等の大量破壊兵器開発に絡むものである*7(図表4)。ここで、留意点を3点示しておきたい。まず第1に、FATF基準の発展を時系列的に見ると、2001年の9.11を受けた、テロリストという非国家主体に対するTFSが最初に取り込まれている。しかし、上記の通り金融制裁は国連の非軍事的措置という大きなカテゴリーの中に位置付けられるものであり、その一義的な対象は特定の国家である。この意味では、国家的アクターを念頭においた拡散金融の方がTFSとしても基本形であり、テロリストを対象としたTFSは、むしろ応用的なものと言える。実際、国連の歴史においては国家的主体に対する制裁の方が、歴史はずっと長い。本章において、TFSを主として拡散金融に関わるテーマとして取り上げるのも、その為である*8。第2に、上述の通りFATF基準に取り込まれているのは、今日において各国が国連安保理の場で合意し、かつ、それが更に既存の地下資金対策の枠組みと関連付けられることにも合意した、極限の最大公約数であるという事実である。特に、北朝鮮・イランに対してのTFSは、それが核不拡散に関連したものであるために、大国同士が地政学的な対立を超え、核保有国としての共通利益の一致を見て、地下資金対策の文脈に置かれることとなったものだ。これらのTFSの実効性すら担保できないというのであれば、およそ非軍事制裁全体の存立が疑わしいということになってしまう。よってその成否は、安全保障という文脈で今日の国際社会に提示された、試金石の一つとも言えるものである。第3に、国連安保理決議に基づくマルチラテラルな制裁の仕組みの存在は、各国が独自の判断によって、個別の制裁措置を行うことを妨げるものではない(図表3・4)。日本も北朝鮮に対して付加的な独自制裁を行っているが、世界通貨ドルを持つ米国の単独制裁(米

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