ファイナンス 2022年5月号 No.678
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還流する地下資金 国家間の共働・軋轢各国の制度国際規範・設計・実施基準の形成北朝鮮のキム・ジョンイル前総書記は、自身の支配基盤強化のため、労働党直轄の資金としての外貨獲得メカニズムを確立させたと言われる。(出典:kremlin.ru, CC BY 3.0)*1) 日本はこれらに加え、独自の制裁として、人道目的かつ10万円以下の支払等を除く北朝鮮に対する支払の原則禁止等、更に厳しい措置を取っている。犯罪収益テロ資金核開発等資金刑事政策 外交・安全保障■ 金融制裁の有効性を巡る第1の問題は、カネがヒトやモノの流れとして、近隣友好国を通じて対象国に流れていく可能性があること。これを防ぐ為には、国際的な働掛けに加え、友好国の手前における各国のアウトバウンドの国境管理強化が必要。■ 第2の問題は、米国の単独制裁乱発によるドルの長期的な地位低下の恐れ。米国の制裁対象拡大に伴い、その遵守を求められる金融機関等の負担は大きい。イラン制裁を巡っては、EUにより独自の決済機関が設立される等、既にドル離れの動きも。■ 第3に、特定対象制裁(TFS)に固有の実施困難性が挙げられる。BOや国籍ロンダリングの存在により、機械的な制裁対象への対応だけでは、実効性が確保されない。国内外に亘る、当局間の連携と情報交換の枠組みを確立することが不可欠。IMF法務局 上級顧問  野田 恒平要旨 52 ファイナンス 2022 May.本章の範囲ロシアのウクライナ侵攻に端を発し、経済制裁の議論が再び注目を集めている。その中核にあるのは、経済の血脈であるカネの流れを遮断するという金融制裁である。経済制裁自体は国際社会において以前から安全保障上のツールとして用いられてきており、これまでの、その最も主要な対象国の一つは北朝鮮である。国際社会の声を無視した北朝鮮の行動に対しては、経済活動全般に亘る厳しい制裁が取られてきた(図表1)*1。しかし、制裁を受けた北朝鮮はその振舞いを改めるどころか、2022年に入ってからも累次のミサイル発射実験を繰り返している。かかる度重なる北朝鮮の挑発的行動を前に、「果たして制裁は効果を上げているのか」という懐疑の声はかねてより多い。制裁の有効性が減殺される根本的な原因は、最終的には今日の国際社会の主権国家体制と、その下での、冷戦構造の残滓を背負った大国を軸とした対立構造にある。他方で、世界が当面はそのような状況を所与とせざるを得ない以上は、現行の制度的枠組の中で、どのように少しでも制裁の実効性を高めていくかを考えていかざるを得ない。前章までで、政府による汚職や国家的テロ支援の問題を見てきたが、本章で取り上げる核兵器開発等に係る資金は、それらにもまして明瞭な形での「国家的」地下資金である。FATF基準に取り込まれたのは比較的最近ながら、その成否に国際社会の真価が問われる領域と言えよう。―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―安全保障の試金石・金融制裁10

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