ファイナンス 2022年5月号 No.678
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5 終わりに*6本稿では、コロナ対応とデジタル社会の未来という切り口でインドの「今」を見てきましたが、全体を通じてお伝えしたかったのは「次々と新しいことに挑戦するインド」の姿です。インドでは、毎年のように新しいイニシアティブが発表され、街では毎月のように新しい建物や店舗(その多くは以前よりも綺麗なもの)が立ち、市場には日々新しい携帯アプリやサービスが登場しており、インドに駐在していると、「常に社会が前進している」という意識を持ちます。翻って日本は、10年経っても社会はそこまで変化していないのではないかと時々思いますが、他方で一般的な生活の質そのものや至るところで見かけるサービス精神や細やかなファイナンス 2022 May. 45*6) United Nations(2020)“International Migration 2020 Highlights.”プロフィール宇佐美 紘一在インド日本大使館二等書記官(兼在ブータン日本国大使館)2013年財務省入省。主税局、仙台国税局、主計局、ハーバード大学留学(MPA-ID)を経て現職。留学中にはケニアのフィンテック会社にてマイクロファイナンス業務に従事。大使館では、有償資金協力(円借款)、マクロ経済、財政、金融、G20、投資等を担当。ては、サンダー・ピチャイ氏(米Goggle社CEO)、サティア・ナデラ氏(米マイクロソフト社CEO)、ニケシュ・アローラ氏(元ソフトバンク副社長)、リシ・スナク氏(英財務大臣)、プリティ・パテル氏(英内務大臣)、アビジット・バナジー氏(米MIT教授、2019年にノーベル経済学賞受賞)などがおり、各界で活躍しています。 ル・インディア」では、(1)全国民に対する有益なデジタル・インフラの提供、(2)行政サービスのオン・デマンド化、(3)デジタル化による国民の能力強化(エンパワーメント)という3つの目標が掲げられました。その裏には、こうした取り組みを通じて、インドが抱える様々な社会開発課題(農村部における貧困問題、銀行口座を持てない多くの国民の存在、行政サービスの地域差、ジェンダー間の様々な格差等)の解決を図りつつ、国内のイノベーションや経済発展を促進する、という考え方があるようです。デジタル・インディアは、デジタル経済の発展や行政のデジタル化にとどまらず、金融包摂の促進、女性の能力強化、ITリテラシーの向上、地域間格差や民族間格差の解消とも密接にかかわっており、デジタルの力を活用した包摂的な社会の実現を目指していると言えるかもしれません。心遣いは他国を凌駕するように感じています。(インドのそれはご想像にお任せします。)そうした対照的な側面を持つ両国であるからこそ、他方の国の政策・文化・歴史に学ぶことは多いのではないかと個人的には感じており、本稿を通じて、少しでもインドの問題や政策に興味・関心を持っていただけたら幸いです。コラム5世界で活躍するインド人国連の移民統計によると、海外で生活するインド人移民の数は1800万人で、これは世界最大とされます*6。主な受入国はUAL(350万人)、米国(270万人)、サウジアラビア(250万人)となっており、豪州、カナダ、クウェート、オマーンと続きますが、出稼ぎ目的の中東産油国への移民や教育・就労目的の英語圏への移民が多いことが分かります。著名人とし

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