ファイナンス 2022年5月号 No.678
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FOREIGNWATCHER 1 はじめに筆者は、コロナ第一波の爪痕が残る中、2020年10月にインドに赴任しました。当時は日本とインドの間の定期旅客便が停止されており、1カ月に1~2便程度のチャーター便が運航するのみでしたが、筆者はこのチャーター便でインドに入国しました。その後、インド政府が設定したエア・バブルにより、日本航空、全日空、エアインディアによる週数便の臨時便の運航が開始され、今年3月からは国際定期便の運航が2年ぶりに再開され、観光客はまだ少ないものの、日印間のビジネス往来が徐々に本格化してきました。ファイナンス 2022 May. 39*1) 国全体の一人当たりGDPは1700ドル程度ですが、デリー、ムンバイの一人当たりGDPは約6000ドルでマニラ(フィリピン)と同等、バンガロールの一人当たりGDPは約8000ドルでジャカルタ(インドネシア)やタイ(全体)と同等となっています。 在インド日本大使館二等書記官(兼在ブータン日本国大使館) 宇佐美 紘一 2 台頭するインドインドと聞くと、途上国のイメージを持つ方がいるかもしれません。確かにインド全体ではバングラデシュと並ぶ低中所得国ですが、デリー、ムンバイ、バンガロール等の主要都市は既に東南アジアの中高所得都市と同等の所得水準となっています*1。加えて、インドは経済規模でフランスを抜き世界第6位となってい今後日本とインドの人の往来が益々増えることが見込まれるところ、インドの「今」をより多くの方に知っていただくことを目的に本稿を執筆しました。以下では、インドに纏わるコラムも交えつつ、台頭するインドの姿、コロナ対応の変遷、デジタル社会の実現に向けた先進的な取組みについてご紹介できればと思います。ます(2020年のGDPは2兆6230億ドル)。IMFによると、インドは2027年まで6%以上の経済成長を続ける見通しであり、これが継続すれば、2030年までに日本を抜き世界第3位の経済大国となる見通しです。地理・言語・人口に目を向ければ、インドはEUや中国にも引けを取りません。インドの面積はEUの4分の3に匹敵する329万km2、これにバングラデシュ・パキスタン・スリランカを加えるとほぼEUと同じ規模(438万km2)となります。加えて、公用語だけでも23言語(EUは24言語)という多様性を持ち、中国と並ぶ約14億人という巨大な人口と若い人口構成(15歳未満人口は中国の1.4倍以上)を有しています。最近ではIT人材の多さが注目されており、例えば、STEM分野の学士号の保有者数は268万人と日本の13倍、アメリカの4.5倍も有し、コロナ禍でも国産ワクチンの開発・製造に成功するなど、科学技術分野でも著しい発展を遂げています。国際社会では、G20やBRICSのメンバーとして発言力を強め、ロシアを巡る対応でも欧米諸国とは異なる中立的な立場を維持しています。また、インドは「アクト・イースト」政策を掲げ、インド太平洋海洋イニシアティブ(IPOI)を推進するなど、アジア太平洋地域における積極的外交を展開し、グローバルパワーとしてますます国際場裏での影響力を増しています。今後の経済成長や人口動態の変化を踏まえれば、米国以外で中国に対抗しうる唯一の国との見方ができるかもしれません。海外ウォッチャーインドの「今」を紐解く コロナ対応とデジタル社会の未来

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