ファイナンス 2022年5月号 No.678
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3脱法行為の横行そもそも、恩給担保貸付は、元々は戦前の闇金対策から始まったものという側面が強いものであった。具体的には、恩給等は受給権の保護があるため、原則として借入の担保とすることは、法令上できない*3ものの、その証書を、実態として担保として貸付け、貸し手が代理受領するスキーム(委任による代理受領の方法)を用いることが一般化し始めたため、後の最高裁判所判例の表現を借りるならば、そういった脱法行(2) 前項ノ規定ニ違反シタルトキハ裁定庁ハ支給庁ニ通知シ恩給ノ支給ヲ差止ムヘシ(3) (略) 2 公庫は、担保に供された恩給等について支払を受ける金銭をもつて当該担保に係る貸付金の弁済に充当するものとする。 (受給権の放棄の禁止)第 四条 恩給等を担保に供して公庫から貸付を受けた者は、その債務の全部の弁済が終るまでは、その担保に係る恩給等を受ける権利を放棄すること *1) 参照条文は、下記のとおり。 *2) なお、後述する恩給金庫誌に掲載されている「恩給金庫設立回顧」(■貝 ■三)において、「恩給金庫設立の歴史は遠く大正十二年に■る。…」とある。*3) 例えば、恩給法第11条には「恩給ヲ受クルノ権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ担保ニ供スルコトヲ得ス」とある。○恩給法(抄) (譲渡・担保・差押の禁止)第 十一条 恩給ヲ受クルノ権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ担保ニ供スルコトヲ得ス但シ株式会社日本政策金融公庫及別ニ法律ヲ以テ定ムル金融機関ニ担保ニ供スルハ此ノ限ニ在ラズ○恩給担保法(抄) (目的)第 一条 この法律は、株式会社日本政策金融公庫が恩給等を担保として貸付けをする場合におけるその担保の効力に関する規定を設けるとともに、その業務の範囲を拡張することにより、恩給等を担保とする金融の円滑化を図ることを目的とする。 (担保に供された恩給等の支払)第 三条 株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)に担保に供された恩給等については、その担保に供されている間は、公庫だけがこれに係る恩給等の支払を受けることができる。ができない。 (公庫の業務の特例)第 十条 公庫は、株式会社日本政策金融公庫法(平成十九年法律第五十七号)第十一条第一項第一号及び第二号並びに第二項第一号の規定にかかわらず恩給等を担保とする場合に限り、これらの規定による貸付け以外の貸付けの業務を行うことができる。2  前項の業務は、株式会社日本政策金融公庫法の適用については、同法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第一号の下欄に掲げる資金の貸付けの業務とみなす。○沖縄振興開発金融公庫法(昭和47年法律第31号)(抄) (目的)第 一条 沖縄振興開発金融公庫は、沖縄(沖縄県の区域をいう。以下同じ。)における産業の開発を促進するため、長期資金を供給すること等により、一般の金融機関が行う金融及び民間の投資を補完し、又は奨励するとともに、沖縄の国民大衆、住宅を必要とする者、農林漁業者、中小企業者、病院その他の医療施設を開設する者、生活衛生関係の営業者等に対する資金で、一般の金融機関が供給することを困難とするものを供給し、もつて沖縄における経済の振興及び社会の開発に資することを目的とする。 (業務の範囲)第十九条 公庫は、第一条の目的を達成するため、次の業務を行う。 一〜一の三 (略) 二  沖縄に住所を有する者で沖縄において事業を営むものに対して、小口の事業資金の貸付けを行い、並びに沖縄に住所を有する者に対して、小口の教育資金の貸付け(所得の水準その他の政令で定める要件を満たす者に対するものに限る。)を行い、及び恩給等を担保として小口の資金を貸し付けること。 三〜九 (略)2 前項において次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一・一の二 (略)  二 恩給等 株式会社日本政策金融公庫が行う恩給担保金融に関する法律(昭和二十九年法律第九十一号)第二条第一項に規定する恩給等をいう。 三〜五 (略)3 (略)4  株式会社日本政策金融公庫が行う恩給担保金融に関する法律第三条から第九条までの規定は、公庫が同法第二条第一項に規定する恩給等を担保として貸付けをする場合について準用する。大正12年(1923年)から見て令和4年(2022年)は、概ね100年後となる。 22 ファイナンス 2022 May.現在の厚生年金や国民年金といった「社会保険」が、「社会保障法(第6版)」(加藤 智章・菊池 馨実・倉田 聡・前田 雅子)の言葉を借りれば、「リスク分散のため保険の技術を用いて保険料などを財源として給付を行う仕組み」であることと比較すれば、その性格の違いはより明白であろう。そして、そういった性格を有する恩給等を担保とした金銭の貸付けこそが「恩給担保貸付」であるが、それらは万人が行えるものとはされていない。例えば、恩給法(大正12年法律第48号)第11条第1項ただし書き等にあるように、日本公庫及び沖縄振興開発金融公庫(以下「沖縄公庫」という。)にのみ、貸付けにあたって、それらを担保とすることが認められているのである。さらに、株式会社日本政策金融公庫が行う恩給担保金融に関する法律(昭和29年法律第91号。以下「恩給担保法」という。)等により、日本公庫及び沖縄公庫の業務としての法的位置付け等が定められている*1。そのため、一般的に恩給担保貸付と言えば、日本公庫及び沖縄公庫が行っているものを指すわけである。では、こういった恩給担保貸付は、どのような経緯を辿り、最終的に今回の改正に至ったのか。制度・政策の始まりから縮小という、概ね一世紀*2に亘る経緯を振り返ることとしたい。

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