ファイナンス 2022年5月号 No.678
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1はじめに今般の新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の拡大に際しては、様々な対策が講じられてきたことは周知のとおりであるが、その中において、株式会社日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)等の政府系金融機関を通じた資金繰り支援は、これまでにない注目を浴びたところである。2恩給担保貸付とは何かそもそも、令和となった現代社会において「恩給」という単語自体、多くの方には聞きなれない言葉かもしれない。また、その恩給を活用した「恩給担保貸付」となると、意味自体は分かるかもしれないが、一体どのようなものなのか知らない、という方が多いのではないだろうか。ファイナンス 2022 May. 21 大臣官房政策金融課 政策金融第二係長 中川 忠明一方、そういった新型コロナ対策の最中において、いわゆる恩給担保貸付という制度が、令和3年度をもって、原則終了することとなったことは意外と知られていないのではないだろうか。古くは戦前から、国民の皆様への資金供給手段として活用されてきた制度であるものの、令和の現在となった今、なぜ当時このような制度が創設されたのか、恩給担保貸付とはそもそもどういうものなのか、ということは誰もよく分からない、というのが実態かと思われる。時代の役目を果たし、縮小されゆく制度・政策について、そもそもどういうものだったのかを振り返ることは少ないであろう。しかしながら、その過去の経緯を整理することは、今後の新たな行政需要への対応策として学べることが無いかを整理することでもあるのではないだろうか。そういった観点から、本政策(事業)の節目にあたり、一度纏めてみたい。また、今般の法改正により、どういった者が恩給担保貸付の対象として残されることになるのかという照会を、地方公共団体を中心に頂いているところ、各地方公共団体における業務の参考に資するよう、今般の改正におけるポイントを併せて解説することとしたい。なお、本改正にあたり、恩給制度はもとより、共済年金をはじめとした公的年金制度の経緯等も遡って確認・調整を要することが多々あったところ、厚生労働省や総務省をはじめとした関係省庁及び日本公庫等の皆様には、様々な面でお力添えを頂いた。改めて御礼申し上げたい。また、本稿の意見に亘る部分は筆者個人の私的見解であり、政府や財務省の公式見解ではないことを確認しておきたい。(注)  引用にあたり、原文は旧字体であるものについて、一部については、常用漢字に直している。また、その引用中には、今日の観点からは差別的表現ととられかねない箇所があるものの、恩給担保貸付に係る法令の成立過程等を詳述するにあたり、当時の時代背景等を含めて正確に述べる観点から、当該箇所の削除や書き換えは行わず、原文のままとした。そこで、まずこれから述べていく内容の前提として、そもそも「恩給」について簡単に触れておきたい。日本の公的年金制度について、その歴史的経緯等を解説した「日本公的年金制度史-戦後七〇年・皆年金半世紀」(吉原 健二・畑 満)によると、次のように解説されている。「…恩給制度は明治八年(一八七五年)の海軍退隠令、明治九年(一八七六年)の陸軍恩給令によってまず軍人恩給の制度ができ、明治十七年(一八八四年)の官吏恩給令によって一般官吏にまで拡大された。その後教職員などにも恩給制度ができ、大正十二年(一九ニ三年)に制定された恩給法によってこれらの制度が統合された。恩給制度は、一定年限公務に従事して退役した軍人や官吏に対する国の恩恵的給与(賜金)、報償的給付という性格を有し、厳密にいえば社会保障制度としての現在の公的年金制度とは性格が異なっている。」恩給担保貸付の原則廃止にあたって

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