ファイナンス 2022年5月号 No.678
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*37) コロナ禍に再開された各種ファシリティや新設されたファシリティについては木下(2020)を参照してください。*38) ここでは日銀による「主要国の中央銀行における金融調節の枠組み」を参照としています。具体的には「米国では、貸出制度(Discount Window)が2003年に抜本的に見直され、Primary Credit Program と呼ばれる新たな資金貸付けの仕組みがスタンディング・ファシリティとして機能するようになった」(p.14)としています。詳細は下記の資料を参照してください。 https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2006/data/ron0606c.pdf*39) 厳密にはSRFはオークションの形式をとられており、その最低ビット・レート(Minimum bid rate)が連銀貸出と同じ金利になっており、固定されているわけではありません。SRFの詳細は下記を参照してください。 https://www.newyorkfed.org/markets/repo-agreement-ops-faq*40) ちなみに、Afonso et al.(2022)は「Banks are key participants in the fed funds market and adding them as SRF counterparties should enhance rate control by providing a backstop source of liquidity against high-quality assets. As such, the SRF serves as a complement to the discount window」としており、ディスカウント・ウィンドウを補完する役割とみることもできます。*41) 本稿では取り上げていませんが、TAFの導入のタイミングで、通貨スワップによるドル供給も実施しています。通貨スワップについては今後の論文で紹介できればと思っています。ファイナンス 2022 May. 19フェデラル・ファンド(FF)市場およびFFレート(FF金利)入門上記の観点で、2007年12月に新設されたファシリティが「入札型ターム物資金供給ファシリティ(Term Auction Facility, TAF)」です*41。TAFは前述の観点で、連銀からの借入れに対するスティグマを克服できるように設計されました。具体的には、預金取扱機関に対して、28日あるいは84日間の貸出を実施するわけですが、ポイントは前述のとおり入札の形をとる点です。具体的には、ダッチ入札方式により決められた金利が適用され4.5  スタンディング・レポ・ファシリティ(SRF)4.4 コロナ禍で再開されたPDCFPDCFは2010年に終了しましたが、PDCFはコロナ禍(2020年3月17日)において、短期金融市場を安定化させるために再開されています*37。連銀のスタッフ・レポートであるMartin and McLaughlin(2021)によればPDCFの役割は次のように変容しています。すなわち、2008年においては、サブプライム問題や証券化商品の問題を発端にレポ市場に混乱が起こり、PDCFが設立されました(金融危機時におけるレポ市場の混乱については筆者の「米国MMF入門」を参照してください)。その一方、コロナ危機では経済に与える影響の不透明性が高かったことから、多くの投資家がリスク資産をキャッシュへ転換し、金融市場に広範な影響をもたらす可能性を有していました。そこで、コロナ禍において企業や家計等が資金調達が困難になることを防ぐため、プライマリー・ディーラーにも連銀貸出を開放したわけです。コロナ禍においてPDCFがどのような影響をもたらしたかについては今後多くの実証分析が必要になると思われますが、連銀からリリースされた論文であるCarlson and Macchiavelli(2021)によれば、PDCFによりプライマリー・ディーラーがCPの発行などをサポートするなどプラスに寄与したとしています。最後に、2021年7月に導入されたスタンディング・レポ・ファシリティ(Standing Repo Facility, SRF)を紹介します。そもそも、「スタンディング・ファシリティ(常設ファシリティ)」とは、中央銀行から民間金融機関が短期の借入れ(預金受入れ)を行う制度を指します*38。これまで説明してきたプライマリー貸出などの連銀貸出もスタンディング・ファシリティに相当するものですが、SRFとは、レポについて常設ファシリティを拡張したものです。この制度では主にプライマリー・ディーラーが国債などの適格担保を差し出すことで資金を借り入れられるというレポのオペレーションです。これまで一時的に導入されたPDCFを常設化したとみることもできますが、PDCFに対し、その対象がプライマリー・ディーラーだけでなく預金取扱機関を含むなど、より拡張されたものとして解釈できます。SRFでは、通常の連銀貸出の同じレートがSRFの最低ビット・レート*39となっており、図表10におけるFFレートの上限はSLFのレポ・レートと解釈することもできます*40。*41BOX 2 金融危機時に導入されたその他のファシリティ本稿で説明したとおり、FRBは金融危機時において連銀貸出のスティグマを解消するため、連銀貸出の方法として入札(オークション)を用いました。バーナンキ(2015)はその理由として、「今の公定歩合で固定するやり方よりも、潜在的な借り手が資金調達のために行う入札によって金利を設定する方が、FRBから借り入れる不名誉感を減らすことができる。借り手は懲罰金利ではなく、市場金利を払っていると主張できる。入札を行い、落札が決定するまでには時間を要するので、借り手は資金を遅れて受け取るが、彼らが資金不足で切迫していないという証明になる」(p.206)としています。

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