ファイナンス 2022年5月号 No.678
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https://www.newyorkfed.org/markets/pdcf_faq.html庇護下に入った』という安心感が市場に広がればよいという期待があった」(p.153-154)とコメントしています。たが、その後利用することはなかった」(p.325)としています。図表11 PDCFのイメージ*31) その後、さらにディスカウント・レートを引き下げています。これ以外にも、連銀貸出の最長満期を30日から90日に延ばすなどの措置も行っています。*32) その結果、シティバンクなど大手行が借入れを行い、連銀貸出が増えることになり、一定の成功を得たとしています。もっとも、バーナンキ(2015)ではこの最初の成功は長く続かなかったとしており、「全体で20億ドルをFRBから借りたと大々的に発表した四大銀行は、不名誉ということが明らかに心中にあったのだろう、彼らの発表の中ではっきりとそのお金は必要がなかったと言い放った」(p.199)と指摘しています。*33) PDCFの制度の詳細は下記などニューヨーク連銀のサイトを参照してください。 *34) ポールソン(2010)は「大恐慌以降、はじめて投資銀行に公定歩合での貸し出しを行うことにしたのだ。(中略)これによって『投資銀行がFRBの*35) ちなみに、金融危機時にゴールドマン・サックスが証券持株会社から銀行持株会社へ法人格を移行しますが、バーナンキ(2015)は、この移行はFRBから資金を得るためと報じられることがあるものの、これは不正確な理解だとしています。というのも、この時点で前述のとおりPDCFがあったため、投資銀行はすでにFRBから資金融通を受けることができたからです。ここでなぜゴールドマン・サックスが銀行持ち株会社に移行したかは議論しませんが、バーナンキ(2015)は「ゴールドマンの経営陣は監督機関がFRBになったと発表するだけで、短期資金の取り付けリスクを減らすことができると信じていた」(p.58)という見方を提示しています。*36) バーナンキ(2015)では「リーマンは、3月と4月にプライマリー・ディーラー融資制度から七回資金調達し、量的には27億ドルという巨額になっ<FRBが長期プライマリー貸出金利で貸出>国債を担保として提供 18 ファイナンス 2022 May.たら弱っているとみなされる(そしてますます民間資金の調達が難しくなる)のではないかと銀行が不安に思ってしまう」(バーナンキ 2015, p.194)というスティグマの問題を指摘しています。これに対応するため、まずはディスカウント・レート(公定歩合)を従来、「政策金利+100bps」であるところ、「政策金利+50bps」へ引き下げることで連銀からの借入れを容易にしました*31。また、スティグマを解消するため、FRBは各行に連銀貸出を使うように説得するなどしました*32。FRBは連銀貸出において入札方式を導入することでスティグマを解消するという工夫も行っていますが、詳細はBOX 2を参照してください。投資銀行向けのファシリティ:PDCF金融危機時には投資銀行(証券会社)への連銀貸出も拡充されます。筆者が執筆した「米国MMF入門」で説明したとおり、投資銀行は預金ではなく、MMFやレポなどホールセール・ファンディングに依存しています。上述の連銀貸出は預金取扱機関を対象としたものですが、リーマン・ブラザーズが破綻したことからもわかるとおり、より深刻であったものは投資銀行の資金調達であったともいえます。実はFRBが投資銀行へ連銀貸出をすることには当時高いハードルがあったのですが、結論的には連邦準備法13条3項を発動し、FRBは投資銀行に対する融資に踏み切ります(これは1930年代の大恐慌以来の措置なのですが、この詳細を知りたい読者はバーナンキ(2015)を参照してください)。投資銀行に向けた連銀貸出の観点で特に重要なものが2018年3月16日に導入した「プライマリー・ディーラー向け貸出ファシリティ(Primary Dealer Credit Facility, PDCF)」です*33*34。プライマリー・ディーラーとはニューヨーク連銀と直接取引ができる政府公認の業者であり、主に投資銀行で構成されます。PDCFのイメージは図表11に記載してありますが、PDCFは、前述の「プライマリー貸出」の金利でプライマリー・ディーラーに対して貸出を行うものであり、これは従来、連銀貸出の対象が預金取扱機関であったところ、投資銀行を中心としたプライマリー・ディーラーへ最後の貸し手機能を拡充したとみることができます(FRBは2008年9月に担保要件を緩和しています)*35。もっとも、バーナンキ(2015)では「プライマリー・ディーラー融資制度には汚名が伴う(どのような企業もプライマリー・ディーラー向け融資制度から資金を借りる必要があることを認めたくない)」(p.325)などと指摘しており、やはりスティグマの問題が存在したとしています*36。FRB国債プライマリー・ディーラー国債

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