ファイナンス 2022年5月号 No.678
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4連銀貸出とスティグマ4.1  「最後の貸し手」機能とバジョットの(Open Market Trading Desk, the Desk)図表9 金融危機以降のFF市場:フロアにヒットしたケースFFレート*24) バーナンキ(2012)のp.16から抜粋しています。*25) ここでの議論はSwanson(2022)を参照しています。*26) Discount Window(あるいはDiscount Window Lending)は逐語訳すると「割引窓口」ですが、ここは木下(2018)を参照し、連銀貸出と訳しています。木下(2018)によれば、この「割引窓口」という名称が使われている背景には、「かつてFRBが、預金取扱金融機関が持ち込む手形などの有価証券の再割引を行うことで、資金を供給することが多かったという歴的な沿革に由来している」(p.186)と説明しています。米国の公開市場操作は、ニューヨーク連銀における公開市場トレーディング・デスク(Open Market Trading Desk)と呼ばれる部署で実施されます。英語ではしばしばthe Deskと記載されます。デスクは、プライマリー・ディーラーや大手行とのやり取り等を通じて情報収集をします。また、デスクはFFレートを操作するために各行の準備金の状況等についても調査します。国債の買い切りオペや本稿で説明するリバース・レポ・ファシリティなど、多くのオペレーションはニューヨーク連銀が担っています。実は米国の場合、国債の買い切りオペがモデルに基づき執行されるなど様々な興味深い点があるのですが、これらについては今後の論文で取り上げたいと思います。IORBON RRP/FFレート供給曲線のシフト量原則BOX 1  ニューヨーク連銀の公開市場トレーディング・デスク 16 ファイナンス 2022 May.図表9はMMFなどの余剰金が増えてフロアにヒットしたケースになります。この場合、前述のメカニズムでリバース・レポ・ファシリティの利用が増えることになります。前節では金融危機以降、FFレートをコントロールするためにFRBが行ってきた工夫について議論をしてきましたが、基本的にはFFレートに下限を付すことを考えてきました。もっとも、前述のとおり、例えば2019年などFFレートはIORB(IOER)の水準を上回ることがあることも確認しました。そこで最後に、FFレートの上限について考えていきます。FFレートの上限を考えるうえで、ここから中央銀行の「最後の貸し手」機能について着目していきます。そもそも銀行は、例えば多くの預金者が一斉に引き出した場合、その引き出しに対応できず、テクニカルに倒産してしまうということが起こります。その意味で、銀行は脆弱性を有しているとみることができますが、この際に中央銀行が「最後の貸し手」機能を発揮することで銀行危機を防ぐことが期待されています。しばしば最後の貸し手機能として紹介されるものがウォルター・バジョット氏によるバジョットの原則です。バジョットの原則とは「パニックの期間には中央銀行は相手がだれであれ担保を持っている限りは物惜しみしないで貸し出すべきである」*24というものです。金融危機時などのパニックの際には、中央銀行は優良な資産を担保に、やや高めの罰則金利を求めることで、本当にお金を必要としている銀行に対して最後の貸し手機能を発揮すべきということです。先ほどのFF市場の需要曲線と供給曲線の図を用いて、最後の貸し手機能がFF市場に与える役割について確認します*25。最後の貸し手機能として、具体的には、連邦準備銀行には連銀貸出(ディスカウント・ウィンドウ)*26という制度があり、銀行は一定の金利(ディスカウント・レート)で借り入れることが可能です。これは日本では基準貸付利率(以前の公定歩合)と呼ばれているものです。連銀貸出をFF市場の観点でみると、銀行からすればFF市場で割高で借りるな

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