ファイナンス 2022年5月号 No.678
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3FF市場における流動性の低下: 図表2 米国の連邦準備制度の仕組み*11) このうちの議決権の1つはニューヨーク連銀の総裁が保有しており、残りの4つの議決権を他の11の連邦準備銀行の総裁が輪番で保有することにな*12) 実は、超過準備預金に金利を付けることは技術的な要因で2006年に決まっており、2011年に発効することが決まっていましたが、金融危機時に開(出所)ウォルシュ・スティグリッツ(2014)より抜粋3人の行外取締役を任命6人の行外取締役を選抜大統領の任命を受け、上院で承認された7人の理事によって構成される。各銀行とも9名の行外取締役によって構成され、彼らは連邦準備銀行の総裁を任命する。連邦準備制度理事会(FRB)12の連邦準備銀行加盟商業銀行ります。始時期を早めるという措置をとりました。連邦準備制度理事会と、5人の連邦準備銀行の総裁によって構成される。連邦公開市場委員会(FOMC)3.1 付利の導入IORB(IOER)とリバース・レポの導入 12 ファイナンス 2022 May.(Federal Open Market Committee, FOMC)でなされます。このような制度全体を連邦準備制度(Federal Reserve System)といいます。FOMCは日銀でいうところの金融政策決定会合に相当するものです。そもそも、短期金利を操作するために国債の売買をすることを公開市場操作(open-market operation)といい、FOMCは連邦準備制度においてopen-market operationを決める委員会(committee)であることに由来します。FOMCでは政策金利の誘導やマネーサプライを調整するために米国債をどの程度購入するか等を決定します(実際の公開市場操作は、金融街に物理的に近いニューヨーク連銀が実施します)。図表2はFRB、12の連邦準備銀行、FOMCの関係を示しています。金融政策を定めるFOMCは、12ある連邦準備銀行の総裁の中からの5名*11と、FRBの7名の理事によって組織されます。FOMCでは投票によって意思決定がなされる形がとられています。詳細はウォルシュ・スティグリッツ(2014)などマクロ経済学のテキストを参照してください。注意すべき点は、FFレートが米国の政策金利ではない時期がある点です。マクロ経済学のテキストで必ず触れられますが、ポール・ボルカー氏が議長であった時期は、米国の中央銀行は短期金利ではなく、マネー・サプライをコントロールしていたとされます。金融政策に関する経済学の代表的なテキストの一つであるWalsh(2017)では、1980年代後半からFFレートを直接コントロールしているとしています。この辺りについても多くのマクロ経済学のテキストで詳細に議論されるため、詳細な議論はそちらに譲ります。FF市場について注意すべき点は、金融危機以降、FF市場の流動性が低下している点です。米国では金融危機時の緊急融資や量的緩和によりFRBの準備預金が拡大しました。中央銀行は、例えば国債の売買によって準備預金を増減させることでFFレートをコントロールしているのですが、銀行の準備預金が十分大きい場合、銀行の間で互いに資金の貸し借りを行う必要がなくなります。これはFRBからみれば、準備預金を増減したとしても銀行の行動に影響を与えることができなくなるわけですから、FRBがFFレートをコントロールできなくなるリスクをはらんでいました(FF市場における流動性の低下により、米国のLIBORの代替金利はFFレートではなく、レポ取引に立脚した担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate, SOFR)が採用された点は服部(2022a)で説明しました)。バーナンキ(2015)によれば、このような問題に対処するため、例えば緊急融資により準備金が増加した場合、FRBが保有する米国債を売却し、その影響を相殺(いわゆる不胎化)していたとしていますが、それは一時的な対策と整理しています。このような問題に抜本的に対処するため、超過準備預金に金利(付利)を支払うことにより、金利の下限を設定しようとしたものがIOER(Interest On Excess Reserves, 超過準備預金金利)です(2021年7月にIOERはIORR(Interest Rate On Required Reserves, 所要準備付利金利)と統合されて、現在はInterest on Reserve Balances(IORB)と呼ばれています)*12。

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