ファイナンス 2022年5月号 No.678
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量 ファイナンス 2022 May. 11図表1 フェデラル・ファンド市場における需要曲線と供給曲線FFレートフェデラル・ファンド(FF)市場およびFFレート(FF金利)入門市場で決まるFFレート*5) ニューヨーク連銀のウェブサイトでは「The effective federal funds rate(EFFR)is calculated as a volume-weighted median of overnight federal funds transactions reported in the FR 2420 Report of Selected Money Market Rates. The New York Fed publishes the EFFR for the prior business day on the New York Fedʼs website at approximately 9:00 a.m.」としています。*6) ここでの説明はSwanson(2022)を参照しています。ちなみに、メーリング(2021)によれば、レポ市場はフェデラル・ファンド市場より先に誕生しています。*7) ブラインダー(2008)は、「フェデラルファンド金利に基づいて行われる重要な経済取引は一つもないのである。銀行貸出金利、債券利回り、為替レート、株価のような重要な金利や資産価格に連邦準備制度理事会の金融政策が影響を及ぼすためには、フェデラルファンド金利の変更が何らかの経路を通じてこれらの金融指数に影響を及ぼさなければならない。このリンクを説明するために通常持ち出されるのが、『期待構造に関する期待仮説』である」(p.141)としています。金利の期待仮説については服部(2019)を参照してください。*8) アセモグル・レイブソン・リスト(2020)では、第11章で丁寧にFF市場やFFレートが与える影響について説明をしてます。*9) Bernanke and Blinder(1992)はFFレートが実態経済と密接な関係にあることを実証的な観点で議論しています。*10) 正確には、Board of Governors of the Federal Reserve Systemになりますが、ここではよく使われるFRBという表現を用いています。1935年における法改正前は、Federal Reserve Boardという名称が正式名称でした。供給需要2.2 政策金利としてみたFFレートここでは紙面の関係で割愛します(アセモグル・レイブソン・リスト(2020)などを参照してください)。FFレートはこのようにFF市場で取引される金利になりますが、FFレートといった場合、通常はニューヨーク連邦準備銀行(ニューヨーク連銀)によって日々公表されている実効FFレート(Effective Federal Fund Rate, EFFR)を指す傾向にあります。一日の中で多くの銀行がFF市場で貸し借りをするわけですが、むろん、その金利は取引のタイミング等で異なります。実効FFレートは、1日の中で実際に取引されたFFレートを取引高で加重平均(メディアン)したものです(ニューヨーク連銀は実効FFレートをおおよそ9時に公表しています)*5。「リスク・フリー・レート入門」(服部, 2021)でも説明しましたが、我が国における無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)も実際の取引高の加重平均になっており、基本的にTONAは実効FFレートと同じ概念の金利です(本稿では以降、煩雑さを避けるため、FFレートと実効FFレートを特別区別せず記載していきます)。FF市場の起源は、米国における連邦準備システムの誕生と密接な関係を有しています*6。そもそも米国には中央銀行がない時代があったのですが、不況などを契機に連邦準備システムが確立します(この詳細を知りたい読者はバーナンキ(2012, 2015)などを参照してください)。それに伴い、連邦準備のネットワークに含まれる銀行は、規制上、一定の準備預金が求められることになり、銀行の間で準備預金を貸し借りするマーケットが1920年代に形成されました。FFレートの有する最も重要な特徴の一つは、FFレートが米国の中央銀行の政策金利である点です。伝統的な金融政策は中央銀行が短期金利を操作するとされますが、この短期金利とは米国ではFFレートを指します。ブラインダー(1999)が指摘するとおり、多くの学者や市場参加者は長い間FFレートが米国中央銀行の政策手段の中心であることを認めています。もちろん、前述のとおり、FFレートそのものはFF市場における貸し借りの金利であり、この金利自体が必ずしも重要な経済活動に直接影響を与えるとは限りません。しかし、FFレートは、様々なチャネルを経由して重要な金融指数等に紐づいているとされています*7。例えば、アセモグル・レイブソン・リスト(2020)では、「フェデラル・ファンド・レートが下落するときには、長期実質金利も下落するという傾向がある」(p.412)としており*8、学術研究でもFFレートが様々な変数と関連づいていることをサポートする結果が得られています*9。ここで簡単に米国の中央銀行の制度を確認しておきます。米国の場合、12の地域を管轄する連邦準備銀行および各地区の連銀を統括する連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, FRB)*10があり、金融政策の決定はそれらで構成される連邦公開市場委員会

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