ファイナンス 2022年5月号 No.678
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2フェデラル・ファンド市場と 1はじめに本稿はフェデラル・ファンド市場(FF市場)の説明をすることを目的としています。FF市場は米国における無担保コール市場であり、そこで形成される金利はフェデラル・ファンド・レート(FFレート、FF金利)と呼ばれています。FFレートは米国において中央銀行の政策金利として用いられており、非常に注目の高い金利といえます。https://sites.google.com/site/hattori0819/ *1) 本稿の作成にあたって、宍戸知暁氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 *3) 正確には、準備預金とは「民間銀行が中央銀行に保有している預金と、民間銀行の手元現金の合計」(p.395, アセモグル等 2019)です。*4) ニューヨーク連銀のサイトでは、「The federal funds market consists of domestic unsecured borrowings in U.S. dollars by depository institutions from other depository institutions and certain other entities, primarily government-sponsored enterprises.」としています。2.1 フェデラル・ファンド市場とは何かフェデラル・ファンド・レートの概要 10 ファイナンス 2022 May.本稿ではFFレートをコントロールするため、金融危機以降導入された様々な工夫に焦点をあてます。例えば、本稿で説明するリバース・レポ・ファシリティは、金融危機以降、FF市場の流動性が低下する中、FFレートに下限(フロア)を付すために実施されているオペレーションといえます。本稿ではFFレートの上限という観点でFRBによる「最後の貸し手」機能がFF市場に与える影響についても議論していきます。なお、本稿ではレポ取引やMMFの基本知識を前提とさせていただくため、これらの知識を確認したい読者は筆者が記載した「SOFR入門」と「米国MMF入門」をご一読いただければ幸いです。筆者がこれまで執筆してきた一連の債券入門シリーズについては、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してありますので、そちらもご参照いただければと思います*2。FF市場とは、米国における銀行が中央銀行に預けている預金、すなわち、準備預金*3を貸し借りする市場です。通常の銀行は、業務のために一定の手元流動性が必要ですし、また、規制上も一定の準備預金が求められています。もっとも、ある銀行はその預金が十分にある一方で、ある銀行は不足するということが起こりえます。FF市場は、その場合の資金融通をする市場です。この市場が「フェデラル・ファンド」市場と呼ばれる理由は、連邦(フェデラル)準備システムの中で、資金(ファンド)を融通するからです。FF市場の参加者は、連邦準備銀行に預金を持っている金融機関になります。具体的には商業銀行やその他の預金取扱機関、海外の銀行の米国支店や政府支援機関(Government Sponsored Enterprise, GSE)などです*4。この市場は、通常はオーバーナイトで貸借を行うため、オーバーナイト市場と呼ばれることもあります。冒頭で言及したFFレートとは、FF市場で形成される金利です。図表1がFF市場における需要曲線と供給曲線を示しています。借り手にとって金利が低くなれば準備預金に預ける機会費用が低下するため、需要が増えます(その結果、需要曲線は右下がりのラインになっています)。一方、準備預金の供給は中央銀行によって定められ、一定とします(つまり供給曲線は垂直であるとします)。この需給をバランスする金利が市場で形成されるFFレート(図表における「市場で決まるFFレート」)です。ちなみに、マクロ経済学のテキストではFF市場における需要曲線と供給曲線の変動要因について通常、紙面を割いて説明されますが、東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1「最後の貸し手」機能の変遷について-フェデラル・ファンド(FF)市場およびFFレート(FF金利)入門-金融危機以降のFF市場および

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