ファイナンス 2022年4月号 No.677
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今朝、例によってスーパーに買い出しに出かけたら、「○○商品を△月△日から値上げします」という値上げ予告の張り紙が目についた。先月ある酒蔵を見学した折に酒粕を入手したので、粕汁を作ろうと買い出しに行ったのである。コロナ禍起因の物流の混乱やら各国の景気回復による需要増とやらで、世界的にインフレ傾向となっているらしい。それに加えて、ロシアのウクライナ侵攻とこれに対する経済制裁も行われている。原油価格はどんどん上がる。穀物も上がる。世界的に物価上昇は深刻なものになってきたと報じられる今日この頃である。長年デフレが続く日本でも、卸売物価は顕著に上昇し、小売物価もまだ恐る恐るではあるが上がりつつある。原材料や輸送費が上がっているのだから当然のことなのだが、長年にわたって給料がほとんど上がっていない消費者の側からすれば、やっぱり困る。将来の社会保障も不安だから節約しないと。値上げせずに企業努力で何とかしてくれと言いたくなる。しかし企業努力というのは、結局のところリストラなので、人件費の下げ圧力となるのだから、ここはおおらかに値上げを受け入れるべきだろう。そもそも適度なインフレは、無産階級にとっては長期的には有利なはずで、格差是正にもプラスに作用するはずだ。ということはわかっちゃいるのだが、スーパーの売り場では長年の悲しき習性なのか、わずかでも安い品を探し、値上げ予告があれば駆け込みで買い込んでしまう。いい年齢をしてまことに情けない。粕汁用の食材のほか、賞味期限近くなって割引になっている豚の薄切り肉を買う。こちらは生姜焼き用だ。加えて値上げ予告品の数々で大荷物である。さて、先日「『月給百円』サラリ-マン」(岩瀬彰著、講談社現代新書)という本を読んだ。大正後期から戦前昭和にかけてのサラーマンライフを給料と家計の観点から描いた本である。因みに、書名の「月給百円」とは、戦前昭和でサラリーマンとして夫婦子供二人で何とか普通の生活ができる給与水準の相場観を意味する。デフレが深刻であった昭和6年の家計調査でホワイトカラーの1か月の平均実収入(貯金の取り崩しなども含む)は92円である。当時ボーナスは年間2~4か月支給であったから年収1,200円というところであろう。現在に引き直すと年収5~600万円という感じであろうか。さて、同書によると、戦前の通貨価値は、総理府統計局が昭和28年に公表した戦前基準の物価指数(昭和9~11年平均)をあてはめて現在と比較するのが通例らしい。同書によると、今から100年ほど前の大正11年の小売物価指数は1.5であり、昭和10年頃より5割高かった。第一次大戦の好景気の余韻が残っていたということだろう。一方、不景気の谷底にあって、経済政策を金解禁・緊縮財政から金輸出再禁止・積極財政に転換した昭和6年は0.885であり、大正後半から戦前昭和にかけてのボトムであった。その後緩やかに上昇して昭和11年が1.04。昭和12年以降は急速に上昇した。50年近く前に学校で習った戦前の物価騰貴と言えば米騒動である。米騒動は大正7年8月に富山県西水橋町の漁家の主婦たちの暴動に端を発し、30府県以上に波及した。大正5年まで1升10銭台だった米の小売値が、7年8月には40数銭まで急騰した。エンゲル係数の高い庶民にとって、主食がこれほど上がっては堪まらないだろう。米価急騰はシベリア出兵を見込んだ米の買い占めが直接の原因であるが、大正5年以降物価は全般的に大きく上昇した。「物価の世相100年」(岩崎爾郎著、読売新聞社)によれば、当時の新聞にはその493月△日日曜日新々私の週末料理日記

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