ファイナンス 2022年4月号 No.677
77/102

職員トップセミナー 3.バイオ燃料への挑戦(1)電気自動車では解決策にならない1番を目指すということは、一回で成功することではありません。1番を目指す過程でたくさん失敗をするでしょう。しかし、それでいいのです。何故なら、1番を目指して失敗の経験を重ねないことには、競争するために必要なアセット、リソースにアクセスできないからです。(2)適切な科学と繰り返し努力する力最初にお話ししたとおり、私は平凡な中流家庭で育ちましたが、それでも世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養を成功させることができました。お金持ちかどうか、特別な才能に恵まれているかどうか、家柄やコネがあるかどうか、こうしたものは成功するために本当に必要なものではありません。一回でイノベーション、一回で成功するというのは難しいでしょう。99%失敗します。でも「99%失敗するからやめよう」ではイノベーションは起きません。2回やると0.99の二乗ですから1.99%うまくいきます。3回、4回、5回と繰り返していき、100回やると64%、459回繰り返すと最初と数字が逆になります。1回やって99%失敗するということは、459回努力すると99%うまくいくことと同じ意味です。イノベーションを起こすために必要なのは「適切な科学」と「繰り返し努力する力」。この2つの掛け算ですべての人、すべての学生、すべての若者がイノベーションを起こすことができます。新型コロナウイルス感染症の影響が拡大する前に新潟で応用物理学会がありました。その学会のテーマが「いかにしてイノベーションをやり切るか」でした。これは私の人生のテーマでもあります。2014年にノーベル物理学賞を受賞された天野浩先生と一時間お話させていただきました。最後に天野先生が急に「出雲君、あなたは商社に出資してもらうまで500社への営業をよく頑張りましたね。ところで、私の母校である名古屋大学は日本一お金持ちでもなく、日本一偏差値が高いわけでもなく、一番優秀な学生が集まる大学でもない。それでも私は青色LEDを発明しました。私が何回実験に失敗したか、出雲君知っていますか」とお尋ねになりました。私は知らなかったのでお尋ねしたら、1,500回失敗したそうです。先生は「1,500回失敗した人はほかに誰もいなかった」と笑っておられました。私は天野先生の言葉で、お金や能力、家柄などはイノベーションとは関係ないことを確信しました。(3)メンターとアンカー若者が繰り返し努力するために必要なもの、それは「メンター」と「アンカー」です。心の底から尊敬している先生、先輩、師匠といったメンターと、そうした人からいただいた手紙、お守り、品物、ハンカチ等のアンカーです。メンターとアンカー、これが1位と2位を分かつ最大のポイントです。私のメンターはムハマド・ユヌス博士です。ユヌス博士と私は「いつの日か貧困博物館を作ろう」と約束しました。今、貧困博物館をつくっても誰も来てくれないですが、恐竜博物館やSL博物館と一緒で、この世から貧困がなくなったら、貧困のことを学びに皆が博物館に来るようになるでしょう。貧困の撲滅を成し遂げたら、貧困博物館を一緒に作ろう、とユヌス博士と約束をしました。そんなユヌス博士と出会ったバングラデシュで私は1枚のTシャツをお土産に購入しました。実験がうまくいかないときや、営業に行くのがいやだ、もうやめようと思ったとき、クローゼットにあるこのTシャツが目に入るのです。これを見ると、ユヌス博士のこと、大学1年でバングラデシュに行った時のこと、自分がなぜ会社を立ち上げたのかということ、そうしたことを全部思い出して「苦しいけれど明日もう一回だけやってみよう」という気持ちになります。ですから、皆さんには「ぜひこれは」という後輩、学生、若者にとってのメンターになっていただき、そして、アンカーを渡してあげてほしいのです。アンカーは夢や志を忘れずにいるためのものです。情熱を持った若者が500回、1,500回と、繰り返し努力することによって、あらゆる分野で日本はまだ、奇跡を起こすことができます。私たちの3つ目の取り組み、それはバイオ燃料の製造です。私は石油が産出されない我が国で「CO2を排出しない国産のバイオ燃料を作って飛行機を飛ばします」と10年間言い続けて、そんなこと絶対にできな

元のページ  ../index.html#77

このブックを見る