ファイナンス 2022年4月号 No.677
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3.ユーグレナでベンチャー企業を設立(1)500社から断られる人の3倍以上、年間160キロのお米を食べています。それなのに、子どもはみんなおなかだけ膨らんで手足が細く、痛々しい体型になっています。なぜかというと、カレーに具が入っていないからです。ニンジンも玉ねぎも肉も魚も牛乳も卵も。人間が健康に生活するためには新鮮な野菜や果物、肉や卵、牛乳などが必要ですが、バングラデシュでは食べられるのは米ばかりで栄養失調に陥っていたのです。今、十分な食料にアクセスできずに困っている人は世界で10億人いますが、この10億人は、空腹で困っているわけではなく栄養失調で困っています。このことが忘れられず、私は日本に帰ってから徹底的に栄養の勉強をしました。日本で一番栄養価の高いものをバングラデシュに持って行き、喜んでもらおうと決めてたどり着いたのが微細藻類のユーグレナです。(2)栄養価の高いユーグレナユーグレナの緑色は植物の葉の色で葉緑素、クロロフィルの色素の色です。ユーグレナは光合成をする植物プランクトンですが動物性の栄養素も作れます。植物と動物の両方の遺伝子があり、人間が生活するために必要な植物と動物の59種類の栄養素を作れます。私は、この栄養たっぷりのユーグレナをバングラデシュに持っていこうと決めました。大学3年生、二十歳のときです。しかし、当時ユーグレナの大量培養技術は確立されていませんでした。ユーグレナは光合成で増えますが食物連鎖の底辺にいるため、他の微生物がユーグレナの培養槽に混入するとユーグレナを食べてしまいます。昔から多くの研究者がユーグレナの大量培養に取り組んできましたが成功しませんでした。それでも何とかバングラデシュに届けたいという思いで、日本中の研究者の先生方に教えて頂きながら研究を続け、2005年12月16日、世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養に成功しました。それまでは一年間付きっ切りで実験室の中で培養をしても、収穫できるのはわずか100グラムでしたが、今は石垣島で一年間に160トンのユーグレナを生産できます。2005年にユーグレナを大量に培養することができるようになり社会実装の応用研究を終えて、いよいよ販売できる、と営業に行きました。しかし、企業側の反応は冷たいものでした。訪問した企業ではユーグレナの和名であるミドリムシから「イモムシやアオムシ、毛虫の仲間だと思っていた」「ユーグレナがそんなにすごいものなら、なぜ今までほかの会社ではやっていないのか、なぜ採用実績がないのか」と言われました。今まで世界中で研究され、それでも培養できなかったものがようやくできるようになったのに、実績がないから駄目だと言われてしまったのです。2006年1月から2007年12月の2年間で500社に出向きましたが、和名の「ミドリムシ」という名前が気持ち悪い、実績がない、という2つの壁は高く、1社もユーグレナに興味を示してくれませんでした。(2)大手総合商社が初めてユーグレナに出資いつ倒産してもおかしくない。2007年の大晦日は本当に辛かったのですが、そんな時「新聞でユーグレナのことを読んでとても面白そうだから当社の試験を受けてみませんか」と大手総合商社の方から連絡が来ました。501社目、これが駄目だったら倒産して自己破産しようと覚悟し、とにかく一生懸命何度も資料を作り直して挑みました。そして2008年のゴールデンウィークが明けた週「一緒に頑張りましょう」と言って頂けたのです。今までの人生でこんなにうれしかったことはありません。2008年5月からこの企業と一緒に全国にユーグレナの説明に行くと、かつてと反応が全然違いました。「目の付けどころが違いますね。これからはユーグレナの時代です」となるのです。その後、「ユーグレナGENKIプログラム」というものを立ち上げて、バングラデシュでユーグレナ入りの栄養豊富なクッキーを小学校で子どもたちに配り、健康状態の改善に取り組みました。その活動を知ったWFP(国連世界食糧計画)、FAO(国連食糧農業機関)、UNDP(国連開発計画)とベンチャー企業である私たちが日本の民間企業として初めて包括提携を結びました。今でも、バングラデシュのスラム街を中心

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