ファイナンス 2022年4月号 No.677
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職員トップセミナー ないし、人数が少ないからです。でも団塊の世代は2025年以降になると後期高齢者となり、後期高齢者になると旅行参加率が落ちることは統計的に明らかになっています。10年後、20年後の星野リゾートのことを考えると、20代の人たちにファンになってもらうことがとても大事です。彼らがどこに行っているかというと、台湾やソウルです。北海道に行くには飛行機で2万5千円とか3万円かかりますが、韓国にはLCCを使って1万円で行けるからです。「インバウンドを増やしていこう」という観光庁の力強い目標がありますが、まだ団塊の世代が国内旅行を支えてくれている間に国全体として20代の旅行参加率を増やす取組を行うことが大切だと思います。(4)日本の観光産業の低い収益率4つ目のポイントは、観光産業の収益率の改善です。産業規模でみると旅行業の規模は23兆円~25兆円で、日本で常に4、5番目くらいの規模を誇っています。2019年はインバンドの影響もあり28兆円でした。日本の観光産業の問題点は、28兆円売り上げがあるのにあまり利益になっていない、生産性が低いということです。観光産業の生産性が低く、その中でも旅館やホテルが一番低い、その中でも地方の温泉旅館が一番低いということはいろいろなところで言われています。生産性が低いために、国内で3~5番目くらいの産業規模を誇りながら非正規雇用の割合が圧倒的に高くなっています。つまり、正社員を雇用することができずに非正規社員を雇っているので、平均の時給単価が低く、そのため地方の雇用や人口減少に対応することができる力強い産業になり切れていません。だから28兆円を伸ばすと同時に、収益力を高める、売り上げからきちんと利益を出す、そういう経営体質に変えていく必要があると思います。もう一つ大事な点は、構造的な問題を解決することです。最も問題なのは「100日の黒字と265日の赤字」です。これは、私が留学を終えて日本に戻ってきた30年前から全く変わりません。100日は誰が運営しても必ず黒字になります。ゴールデンウィークや夏休み、お盆休み、年末年始、こうした時期に満室にならないようならまずい状態です。星野リゾートがこれだけ成長できているのは、この265日の閑散日に向けた工夫を様々やってきたところにあります。100日の黒字を265日の赤字で食いつぶしてしまっては投資が呼び込めませんし、265日は従業員が要らないため正規雇用が少なくて非正規雇用に頼ることになります。さらに言うと、265日はどうしてもお客様は来ないし、100日は努力しなくてもお客様が来るので市場原理がなかなか働きません。私はゴールデンウィークの時期は3倍に値上げしています。「値段が高いですね」とお客様から言われることがありますが、そのお客様の場合、100日の時しか休みが取れていないためそうなるのです。265日の時に来ていただければ、私たちも安い価格を提示できます。ゴールデンウィークの時期には高速道路は大渋滞で、ヘトヘトになってリゾートに来る。一番高い値段、混雑した観光地、ということでお客様の満足度が落ちる。これが日本全国で生じています。観光産業には「埋蔵内需」があります。「埋蔵内需」とは何かというと、旅行に行きたいのに混んでいるし値段も高いから旅行に行かない、観光需要が顕在化していないということです。対策は大型連休を地域別に取得することです。例えば大型連休の時期を、A地方は第1週に、B地方は第2週に、C地方は第3週に、という具合です。フランスなど観光先進国ではすでに実施していますので、これを日本に導入するのがいちばん解決になると思い提案していますが、なかなか進んでいないのが現状です。(5)地方こそSharing Economy最後のポイントは「地方こそSharing Economy」です。ITイノベーションが観光産業を劇的に変えようとしています。民泊やライドシェア、いわゆる白タクといった分野でITの技術が生かされています。民泊は世界の観光地に行くと、当たり前、スタンダードになっています。これが日本の観光地にないということはITのパワーを呼び込めていないひとつの理由になっていると思います。観光の業界団体は宿泊作業が中心の団体ですので、Airbnbのような民泊に反対します。地方の首長さん

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