ファイナンス 2022年4月号 No.677
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2.5つのポイント(1)急激なインバウンドの背景(2)インバウンドの地域偏重2つ目のポイントは、インバウンドの地域偏重です。2019年には海外から3千数百万人が日本を訪れましたが、東京、大阪、京都、沖縄、北海道のトップ5の都道府県が全体の65%を占めています。これをトップ10にまで拡大すると、80%を超え、残りの37県との「インバウンド格差」が起こっています。そもそも、なんのための観光立国か。本来は「地方の新しい経済基盤になろう」ということで観光立国に取り組んでいたはずです。今後は、インバウンド格差、地域偏重を改善していく形でインバウンドを伸ばしていくにはどうしたらよいかという視点が大切です。(3)日本人の国内旅行需要は減少3つ目のポイントは、国内旅行需要の維持・拡大策です。インバウンドの旅行消費額は2019年に4.8億円にまで成長しました。すごい勢いで成長したのは事実ですが、日本の観光産業全体の消費額は実は日本人による日本国内観光で維持されていることを忘れてはいけません。注目していただきたいのは、2013年から2014年です。このときインバウンドは1.7兆円から2.2兆円へと急激な成長を続けていましたが、日本人の国内観光消費額は23.7兆円から22.4兆円に減りました。これが過去10年間に2度生じています。つまりインバウンドをどんなに増やしても、もっと巨大な、85%もある国内需要が少し落ちるだけで日本全体の観光消費額が落ちてしまいます。人口が減っている中で、インバウンドだけを観光立国の目標にしてよいのでしょうか。国内市場をどうやって維持するのかということが大切です。特に年齢が高い人たちよりも若い人たちの旅行参加率が落ちることを心配しています。1年間に旅行に参加した人の数、参加している旅行の数が落ちていることに対する対策をしっかりやる必要があります。私たちが立ち上げた「BEB(ベブ)」というブランドがありますが、これは星野リゾートが初めて20代の若者をセグメンテーションしたブランドです。このセグメントを取り込もうとしている観光事業者は多くありません。なぜかというと、彼らはお金を持っていいます。地方が観光に期待してくれるのは、工場が移転した後の安定的な新しい雇用主であり、海外に移転しない産業であり、それが新たな雇用を生み、人口減少に歯止めをかけ、投資を呼び込む地域密着型の産業になっていくことです。私が経営している「星野リゾート トマム」(北海道勇払郡占冠村)は、この10年くらい収益がとても高く、今は投資家が所有して私たちは運営だけを担当していますが、なんと3年連続でこの地域の人口増加率がナンバーワンになりました。「星野リゾート トマム」の業績が好調なので、スタッフやその家族が住むようになり、人口が増えているからです。これはミクロなケースですが、観光が本当に地方の経済にとってプラスになるのだということを示すことができたと思います。コロナ禍でインバウンドがゼロになり、観光が出直しを図ろうとしているときに、単に従来の状態に戻るのではなくて、観光立国の定義を踏まえ、コロナ禍前にあった問題を解決しながら戻すということを目指した方がいいのではないかと思います。この点をみなさんにも共有していただきたいのです。5つのポイントがあります。最初のポイントはインバウンドの成長の仕方です。インバウンドの最後の10年の成長は、私の予想をはるかに超えていましたし、持続可能な成長ではなかったと思います。その背景のひとつは円安で、もうひとつの背景は日本だけがインバウンドを増やしたのではなく、世界的に外国旅行する人の数がとても増えたということです。その中で円安だったことがとてもプラスになりました。世界的に国外旅行をする人が増えている中で、増加率が最も大きかったのはアジアで、中でも日本が最も恩恵を受けました。私たちは日本の観光業が競争力を強めているという錯覚に陥りますが、実際には非常に運がよかったことで急速なインバウンドの増加となってしまったということで、持続可能ではないと思います。

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