ファイナンス 2022年4月号 No.677
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職員トップセミナー 2.観光立国への道1.観光立国の定義を思い出すことが大切最も重要だったのはマイクロツーリズムです。東京や関西圏で感染が拡大していても、地方の盛岡から青森に旅行する、鳥取県米子市から島根県の玉造温泉に旅行する、鹿児島市から霧島温泉に旅行するのは全く問題ありません。そこを捉えにいかない限り新しい損益分岐点に到達できませんので、全国を11のブロックに分け、徹底してやっていきました。それぞれの地域だけに情報が伝達される仕組みを考え、旅行の魅力を変えました。私たちは「遠くの人に来てもらう」という癖がついているので、地元の人に楽しんでもらうための工夫を忘れていました。地元の人たちは地元のよいものを私たちよりもよく知っていますので、料理の内容や魅力のあり方を様々に工夫して、地元の方に喜んでいただける内容に変えていきました。マイクロツーリズムの取組で、インバウンドが84%だった「星のや東京」はマイクロツーリズムのセグメントが2019年比で約3倍に伸びました。「星のや京都」は2019年、インバウンドが全くなくなってしまいましたが、2020年はマイクロツーリズム市場を伸ばし稼働が80%近くまでになりました。2021年はこれをさらに上積みして、年後半の予約段階のものまで含めると、2019年比で363%になる予定です。マイクロツーリズムは温泉旅館に最も効果が出ました。その理由はインバウンド比率があまり高くなかったからです。もともとマイクロツーリズムの市場はありましたが、そこをさらに伸ばすことによって2019年比でプラスになり、2021年もよい数字が出ています。「18ヶ月サバイバルプラン」を描いたときに、雇用調整助成金で損益分岐点を下げ、マイクロツーリズムに特化して新しい損益分岐点に到達すればよいことが分かっていたわけではありませんが、そこから3か月、4か月でいろいろ工夫して何とかここまで乗り切ってきました。私は、2020年3月から毎日の予約データをチェックしました。これまでこんなに細かく予約状況をチェックした2年間はありませんが、一生懸命チェックして一喜一憂していました。はじめは感染が増えると予約が下がり、感染が減ると予約が上がるという非常に分かりやすい状況でしたが、第4波からは感染が拡大してもキャンセルがあまり出なくなりました。マイクロツーリズムというパターンが1年たってかなり出来上がり、大都市圏の感染拡大に左右されずに安定したマーケットを捉えることができているということだと思います。(4)Go Toトラベルへの提言Go Toトラベルの重要度は昨年の夏より間違いなく落ちていると思います。それはコロナ禍における経営の在り方をみんなが相当学んだ結果、緊急度が落ちていると思うのです。今後Go Toトラベルをどうするべきかという議論がありますが、私は「盛り上げる」というよりも「下支えする」という考え方が大事だと思いますし、感染拡大につながったと批判されないような制度設計することが大事だと思います。また前回の経験から、制度をシンプルにして、感染の第6波、第7波が来ても感染拡大とは関係のない、観光の在り方として継続できる制度にすることがとても大事だと思います。そもそもGo Toトラベルが必要なのかということを自問自答することが結構あります。海外ではEU内でかなり自由に行き来できていますし、米国はカナダとのボーダーを開け、カナダのリゾートが復活してきています。日本はワクチン接種率が75%に達していますので、早くこうした国々との行き来をオープンにすれば、その時点で私はGo Toトラベルではなく事業者の努力に任せていいのではないかと思います。2004年から「観光立国」への取り組みが進められ、私も観光立国推進戦略会議のワーキンググループの一員として参加してきました。私がここ3、4年大事にしているのは観光立国の定義です。マスコミ報道の影響もあって、いつの間にか「インバウンドが増える=観光立国」と理解されるようになっていますので「どういう状態を作ることが観光立国なのか」ということをもう一度定義付けする必要があると思います。定義がないと現状を評価できませんので、私は「観光立国の定義をもう一度思い出そう!」とみなさんに呼び掛けています。私たちは地方の新しい経済基盤になりたいと考えて

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