ファイナンス 2022年4月号 No.677
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4.フラットな組織文化5.コロナ禍における対応(1)優先順位の見直し旅行がかなり流行っており、リゾナーレのメインターゲットとして、ここに特化した展開を行っています。他にも都市観光に訪れる顧客をターゲットにした「OMO(おも)」といったサブブランドがあります。日本は函館や金沢など地方都市が非常に特別で、さらには東京、大阪、京都もそうですが都市を観光に、という市場はかなり巨大に存在しています。再生がうまくいくポイントは何かとよく聞かれますが、「フラットな組織文化」を持っていることが星野リゾートの競争力の源泉だと思います。これは、職責に関係なくものを言える、正しい議論ができる組織文化のことで、私は「侃々諤々なチーム」と表現しています。組織図でいえば一番下の最前線にいるスタッフ一人一人が顧客と接しますのでその場での判断力・瞬発力がサービスの評価につながりますが、経営側に権限が集まってしまうと俊敏性がなくなってしまいます。そのため、経営に必要な情報を最前線のスタッフにできるだけ渡して、現地で、自分たちで考えて行動することが非常に大切です。これは米国の組織論の専門家であるケン・ブランチャード教授が「サービスが経済化する経済においては、組織の在り方はフラットにしないといけない」と著書(邦訳は「(新版)1分間エンパワーメント」)の中で語っていることです。これが私たちがいちばん大事にしている教科書で、星野リゾートの競争力を支えていると思っています。コロナ禍において私がやったことは「優先順位の組み換え」です。2020年の4月、5月は売り上げが90%落ちたので、普段大事にしていることを一旦置いて、この状況を短期的に乗り越えるために必要なことに集中しようと優先順位を変えました。顧客満足度を犠牲にするということを社内で明確にしたのは星野リゾートだけだと思います。短期的な現金を重視するなど、毎月普段とは違った対応を模索しました。(2)雇用調整助成金で損益分岐点が低下ありがたかったのは、国からの雇用調整助成金の制度です。この助成金を国が人件費の一部を肩代わりするものだと捉えてしまうと、効果を最大限発揮できません。雇用調整助成金が経営に与える影響とは本質的に何なのかを社内できちんと解析することが大事だと思います。経営は固定費と変動費から構成され、売り上げが上がってくると損益分岐点に到達します。雇用調整助成金は正社員の人件費、固定費を変動費に変えてしまう効果があるのです。つまり変動費のカーブが少し変わり、また固定費は下がる。これによって損益分岐点が下がります。コロナ禍で売り上げは落ちますが、赤字にならない新しい損益分岐点にたどり着けばよいことになります。感覚的には、65%程度設備を稼働させないと利益が出ないホテルの場合、45%程度の稼働で損益分岐点に到達することができるようになり、経営に大きなインパクトがありました。(3)マイクロツーリズムで国内需要取り込み私は2020年4月に「18ヶ月サバイバルプラン」を考えました。スペイン風邪の時は感染状況が波を打っていたので、今回のコロナでも波を打つだろうと予測しました。売り上げが90%減になっていましたが、18ヶ月間この状態が続くことはないはずだと考え、その間に国内需要を取りにいくことにしました。日本の観光旅行市場は、インバウンドがなくても実は巨大な市場があります。2019年では22兆円程度、一方インバウンドは4.8兆円しかありません。日本人が国内で支払っている海外旅行代金が1.2兆円あり、海外で直接支払っている海外旅行代金を含めると、感覚的には3兆円、4兆円になるのではないかと思います。私たちの顧客満足度調査では「国内旅行に久しぶりに行ったら、結構良くなっていたじゃないか。」という声が多くありました。海外旅行に行くはずだった分まで含めると、国内旅行市場は25兆円程度の規模で存在していて、これを、コロナの感染拡大が止まった時には、あるいは東京や大阪が感染拡大していても、地方の青森県や鹿児島県においては、そこそこの旅行需要を作り出せるのではないかと考えました。2020年6月に市場調査を2万人に対して実施し、この時期に旅行することに対する顧客ニーズを把握して、その結果、大浴場の混雑状況が事前にわかるアプリを準備するなど様々な感染対策を講じました。

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