ファイナンス 2022年4月号 No.677
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職員トップセミナー 3.サブブランド戦略設を維持できません。いろいろな模索をしてたどり着いたのがリート(REIT:不動産投資信託)です。地方にある木造の古い温泉旅館をリートに入れていいのか、という議論もありましたが、収益案件として非常に安定していて、むしろ成長する余地があるということを認めてもらい、日本で初めて地方の温泉旅館の施設を組み入れた観光REITをつくることができました。これによって一般投資家に入ってもらえるようになり、売ったり買ったりする投資家よりも、安定して長期的に保有し、そのリターンをエンジョイしてもらえるオーナーへの展開ができるようになったことが、私たちのさらなる成長と安定につながっていると思います。私たちが運営する56施設の中で20施設程度はリートが所有しています。このリートが順調に資産規模を伸ばし、なおかつ、コロナ禍でも星野リゾート・リートの株価だけはホテルリートの中でコロナ禍の前の価格をはるかに超えて推移しています。先程、所有と開発は諦めて運営に特化するという話をしたところですが、リートで資金調達力がついてきたことによって私たちは自ら開発に携われるようになりました。将来的にチャンスがある案件だと思ったときには、金融機関から資金調達して買い取り、場合によっては改築や改装をします。そうすることによって、資産収益モデル、収益が出る案件に育てて、最終的にはリートのようなオーダーに組み込むというパターンができました。このパターンができると出口が明確になりますから、開発段階でも金融機関が融資に対して非常に積極的に私たちにアプローチしてくれます。ある意味、良い循環ができてきます。それでも私は、いつも開発と所有から手を放そうと考えています。私たちが良いと思った案件を、投資家がファンドを組成してくれることで、開発段階においても私たちに協力してくれています。改装、改築、開業して、収益が安定した段階でリートのような長期安定保有オーナーに対して売却する。そうすることによって、ファンドの色が非常に分かりやすい時期にエグジットができる。こういう好循環の様々なモデルをつくり上げることができました。リーマンショックがなければこのような発想にはなりませんでしたが、あの危機をどう乗り越えて、長期的に安定させるかということを模索した結果、ある意味とても良い状態になっていると思います。マーケティング面では「サブブランド戦略」をとっています。マーケットの中には様々なニーズのセグメントが存在していますので、セグメントに合わせてサブブランドを立ち上げることを行ってきました。外資の運営会社はオーナーの事情でブランドを増やすという傾向があり、典型的な例としては、一つの都市の中で同じサブブランドを持つことを許容してもらえないことがあります。そのため、世界にはマーケットセグメンテーション以上のホテルブランドが出来すぎてしまい混乱を生んでいます。星野リゾートはもともとのブランド戦略に忠実に行こうと、新しいマーケットセグメントが無い限りサブブランドを増やさず、オーナーとの契約においても一つの都市の中で同じサブブランドを持つことを許容してもらえないときには契約を結ばないことにしています。マーケティングをしやすいオーナーとの契約の在り方、マーケティングがしやすい=星野リゾートが強くなることであり、それはオーナーにとっても最終的にはプラスに働くということを強調しながら展開しています。いくつかのサブブランドを紹介しますと、まずは「星のや」です。父から引き継いだ旅館を改築して2005年に星野リゾートのフラグシップブランドとして開業しました。「星のや」は8施設展開しています。次は「リゾナーレ」で、不良債権処理の再生案件第1号となったのが「リゾナーレ八ヶ岳」です。そのときに私たちが見出したセグメントが子供連れファミリー、12歳以下の子供を連れた家族旅行です。このマーケットは、それまで海外旅行に行っていたカップルが、結婚して子供ができて、家族旅行に行くときは、途端に国内にシフトします。国内マーケットの4割が、実は12歳以下の子供連れファミリーで、かなり巨大なセグメントです。そこをターゲットにしています。さらに平日をターゲットにするために、小学校に上がる前の子供を連れた旅のためのサービスに特に力を入れています。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、そして、6歳以下の子供という3世代

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