ファイナンス 2022年4月号 No.677
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1.星野リゾートについて1.運営ビジネスに特化令和3年11月5日(金)開催講師演題星野リゾートは1914年に長野県軽井沢で創業し、私で4代目の温泉旅館です。振り返ってみると、私が会社を継いだ1991年はバブル経済の破綻とともに倒産したリゾートが多かった時期ですが、当時はまだそうしたことは見えていませんでした。見えていたのは1987年に制定された総合保養地域整備法(リゾート法)の適用を受けて、日本全体でリゾートホテルや旅館の部屋数の供給量が劇的に増えたということです。私が旅館を受け継いだ時は、建物が既に創業から47年が経過し老朽化が大きな問題でした。しかし、マーケットは供給過剰でしたので、90室を新しくするために借金を背負うのはとてもリスクがあると感じました。そこで、私は運営ビジネスに特化するという選択をしました。なぜなら、供給過剰状態であるということは、事業者はしばらく収益が出せない状態ですので、運営のうまい会社に任せてもらえるチャンスが出てくるからです。「私たちに運営させてもらえれば今より収益が上がりますよ」と言える運営ノウハウを持った企業になろう、フィービジネス、サービス業に変わっていこう、これがこれまでの30年間で、最大かついちばん良い決断で、あとは運営を一生懸命やり続けている、それだけです。軽井沢の旅館以外で運営を任せてもらうようになったのは金融機関の不良債権処理が始まった2001年です。塩漬けになっていたローンを整理し始めるときに、金融機関から運営を担当してみないか、あるいは、このリゾートを引き継げないかと声をかけてもらうようになりました。人材を育成したり体制を整えたりで時間がかかってしまいましたが、会社を継いでからちょうど10年目の2001年から本格的に運営特化戦略の拠点が増えていきました。不良債権処理の再生案件が2、3年で利益が出始め、それが業界の中で話題になり、また次の仕事が来る。そしてリーマンショック(2008年)が起こり、また次の仕事が来る。東日本大震災の時もそうでした。こうした危機においては、オーナーや投資家、所有者は良い運営会社に任せたほうがいいのではないかと考える場合があって、そこが私たちの仕事を伸ばすことができたポイントです。逆に、コロナ禍前の、インバウンドが増えて、誰が運営しても京都、東京、大阪のような都会のホテルが稼働するときには、あまり仕事が入ってきません。まさにこのコロナ禍のような、また、アフターコロナで復活しなきゃいけないときには私たちの運営力を頼ってもらう、そういうビジネスモデルです。安定して所有してくれる、長期的に日本の観光に投資してくれる投資家と組んでいかないと、私たちの施2.安定して伴走してくれるオーナーを求めてリーマンショックまで、私たちの主な顧客はゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった機関投資家でした。機関投資家が日本の地方のリゾートに投資して、運営を私たちに任せるというパターンでしたが、リーマンショックで機関投資家がみんなリゾート投資から手を引いてしまい、とても危機感を感じました。星野 佳路 氏(星野リゾート代表)観光立国への道職員 トップセミナー

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