ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*25) Nadim Kyriakos-Saad, Manuel Vasquez, Chady El Khouy & Arz El Murr, Islamic Finance and Anti-Money Laundering and Combating the Financing of Terrorism(AML/CFT), WP/16/42, IMF, February 2016 Financing of Recruitment for Terrorist Purposes, FATF, January 2018 Terrorist Financing in West and Central Africa, FATF/GIABA/GABAC, October 2016 Financing of the Terrorist Organisation Islamic State in Iraq and the Levant(ISIL), FATF, February 2015*26) 一例として、米国のIslamic American Relief Agency(IARA-USA)他のいくつかの国と並び、サウジアラビアでは喜捨(ザカート)は法的義務であり、内国税及び関税と併せて、国家の財政基盤の一部として管理されている。写真は、同国政府の喜捨・税務・関税庁ホームページ。(出典:Zakat, Tax and Customs Authority, Saudi Arabia)れている。これらに関しては、先般の相互審査における日本の評価は非常に厳しく、特に勧告8については40ある勧告の内で、我が国が最低評価である不遵守(NC:Non-Compliant)を突き付けられた、唯一のものである。実際官民ともに、日本の現状ではテロ資金のチャンネルとなるリスクという視点でNPOを見る意識は乏しいが、これには無理からぬ部分もある。イスラム圏の慈善団体は、「ザカート(喜捨)」と呼ばれるイスラム法の概念に根差した長い歴史を有しており、その規模及び社会への浸透度は、日本とは全く比較にならない。そして国によっては、喜捨は法的義務として税のような役割を果たしており、所管官庁が直接に統制している例すらある。この豊富な資金源が、同じイスラム法の中の「ジハード(聖戦)」に対する極端な解釈と結び付いた時、その一部がテロ資金として流れて行くという構図が生まれる*25。このような現実は、日本社会の中では実感を持って理解しづらい。イスラム圏の外でも、多くのムスリム人口を抱える欧米ではこのような慈善団体が存在し、9.11後には、テロ資金支援と関わりがあるとして複数の団体が摘発を受け、閉鎖に追い込まれた*26。EUにおいてハマスがテロ組織に指定され、関連する慈善団体が取締りを受けたのも、この時期である。我が国の状況を、これと同一平面で比較することは適切ではない。しかし、そもそもなぜNPOにテロ資金リスクがあり、FATF基準との関係で問題とされるのか、という認識が十分に広まっていない実態こそ、正にFATF審査で突かれたアキレス腱と言えよう。他方で、近年のテロ事件を見ると、このような資金チャンネルさえ必要としないような、ローンウルフ(一匹狼)型のテロリストが増加している。彼らは、ナイフや大型車両といった、安価で身近な手段を用いることも多い。また、資金集めはSNS等を通じて更

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