ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*21) 水谷章『苦悩するパキスタン』花伝社、2011年3月30日 進藤雄介『タリバンの復活:火薬庫化するアフガニスタン』花伝社、2008年10月22日、P.37-42, 163-169, 194-274(「第III部 不安定化する隣国パキスタン」) 前掲・多谷(2016)P.58-62, P.64-107(「第III部 パキスタンとアフガニスタン」), P.172-206(「第V部 破綻国家化するパキスタン」), P.120-127(「アフガン戦争―ISIとイスラム武装勢力の活躍」) 広瀬崇子・堀本武功編著『アフガニスタン:南西アジア情勢を読み解く』明石書店、2002年1月20日、P.57-122(第2部 パキスタンから見たアフガニスタン問題) Daniel Byman (2005), op.cit., P.155-185 (Chapter 6 Pakistan and Kashmir) 9/11 Commission Report(2004), op.cit., Chapter 6.2*22) インド下院議会議事録:Fourteenth Loksabha, Session 14, December 11, 2008 インド外務省報道官発言:Pakistanʼs ʻstate actorsʼ should stop supporting terrorism:India, The Hindu, February 16, 2016*23) K. Alan Kronstadt, Terrorist Attacks in Mumbai, India, and Implications for U.S. Interests, Congressional Research Service, December 19, 2008*24) Best Practices Paper on Combating the Abuse of Non-Profit Organisations(Recommendation 8), FATF, June 2015 Risk of terrorist abuse in non-pro■t organisations, FATF, June 2014 Emile van der Does de Willebois, Nonpro■t Organizations and the Combatting of Terrorism Financing, Working Paper No.208, 2010は、それを更に凌ぐスーパー・パワーである米国からの経済的・軍事的援助は欠かせない。1998年8月のケニア・タンザニアでの米国大使館爆破事件、更に9.11を経て、米国はアル・カーイダを支援するタリバーンを標的とし、ソ連侵攻時からは一転して「テロ掃討」への協力を各国に呼び掛けるようになっていた。そして、このような米国の要請に従わないという選択肢は、パキスタンにはなかったのである。これ以降、同国は米軍へ協力を提供し、また、FATA地域でのテロ組織掃討作戦を強力に展開していくことになるが、深層においてはパキスタンは依然として、苦しい「両面作戦」を強いられている。同国の、時として支離滅裂にも見える振舞いは、このような機微を前提にしなければ理解できない*21。この点は、サウジアラビアとほぼパラレルな構図である。文民政権と軍を軸とした体制内の対立も深刻化している。そして米国の視点から見た時、タリバーンへの対抗に加えパキスタンを抱き込んでおきたいもう一つの理由は、イランの影響力の東方拡大阻止であるが、この点は他ならぬサウジアラビアとも共通の関心事項である。それが証拠に、サウジアラビアから流れ込む大量の慈善団体の資金を通じて、パキスタン各地にはスンニ派の宗教学校が数多く設立されているのである。なお、脅威の認識は多くの場合相互的なものであり、印パ関係についても例外ではない。インドは、自国内で発生したテロのいくつかは、パキスタン政府機関の支援によるものではないかとの疑いを持っている。直近かつ最大の事件は、2008年に170人以上が犠牲になったムンバイ・テロ事件であり、インド国内ではこの事件を中心に、特にISIの関与を追及する声が立法・行政両府から上がっているほか*22、米国議会調査局もパキスタン政府の関与の可能性に関心を向ける等、パキスタンを巡る国際関係に暗い影を落としている*23。現在、パキスタンはイランと同様、特にテロ資金規制が不十分であるとしてリスト掲載されてしまっているが、国際場裡でパキスタンに対し最も強硬な態度でこの点を指弾するのは、インドである。また、前章で取り上げた包括的テロ防圧条約の草案作業に歴史的に最も熱心なのも、やはりインドだ。インドは、パキスタンへの脅威に対処する一つの方途として、テロ資金規制という土俵を最大限に活用しようとしているのである。言うまでもなく、FATFは技術的議論の場であり、政治を正面から持ち込むことはご法度である。会議においては、あくまでテクノクラートとしての領分を逸脱しないよう、議論は時に熱を帯びつつも、慎重に言葉が選ばれながら進行する。その建前を崩したが最後、この枠組み自体が崩壊しかねないことを、どの国も良くわきまえているからである。しかし、テロ資金規制の隠されたアジェンダが、「国家的テロ支援」の抑込みを巡る駆引きであることは、当事国全てが了知する事実なのだ。3. テロ資金のチャンネルと今日的課題さて、ここまでで何度か「慈善団体」という言葉が登場した。テロ資金のチャンネルを理解するためには、このキーワードは避けて通れない*24。FATF基準のテロ資金規制関連規定は、リスクの把握から取引モニタリング等の水際措置、事後的な捜査・訴追に至るまでの各段階につき、概ねマネロン規制の枠組みに沿って組み立てられてきた。他方でテロ資金規制固有の、大きな付加的要素とも言えるのが、この慈善団体ないしはNPOの規制であり、基準の中でも勧告8及び有効性指標10の一部として、独自の準則が設けら

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