ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*16) Daniel Byman(2005), op.cit., P.79-115(Chapter 4 Iran and the Lebanese Hizballah) Boaz Ganor, Global Alert:The Rationality of Modern Islamist Terrorism and the Challenge to the Liberal Democratic World, Columbia University Press, 2015, P.69-72 金恵京『無差別テロ:国際社会はどう対処すればよいか』岩波書店、2016年1月19日、P.31-32*17) 公安調査庁『国際テロリズム要覧2021』が、2012年2月7日付ロイター通信及び2009年12月4日付毎日新聞をそれぞれ引用。*18) もっとも、このような条項はイラン固有のものではなく、アラブ諸国連合の内務・法務大臣間でエジプト・カイロにおいて1998年に締結された「テロ抑止の為のアラブ協定(Convention for Suppression of Terrorism)」においても謳われており、かつ締約国は、協定上これに正面から反する形での留保は付けられないとも読めることが、加盟国間での論争を呼んだ経緯もある。 “All cases of struggle by whatever means, including armed struggle, against foreign occupation and aggression for liberation and self-determination, in accordance with the principles of international law, shall not be regarded as an offence. This provision shall not apply to any act prejudicing the territorial integrity of any Arab State.”(Article 2, a) “No Contracting State may make any reservation that explicitly or implicitly violates the provisions of this Convention or is incompatible with its objectives.”(Article 41) 前掲・板垣(2002)P.163-168(松永泰行)*19) 9/11 Commission Report(2004), op.cit., Chapter7.3 Michael S. Smith II, The Al-Qaeda-Qods Force Nexus:Scratching the Surface of a“Known Unknowns”, Kronos, April 29, 2011 ロイター通信『米国務長官、イランを非難 「アルカイダの新たな拠点」』、2021年1月12日イラン・イスラム革命の最中に、テヘラン大学で座込みを行う聖職者(出典:Khamenei.ir, CC BY 4.0)イラン水際措置の強化を進めている。2019年6月には、FATF本体の正式メンバーともなった。この国は、イスラム原理主義の伝統的理念と、親米路線という現代国家としての国是の間で、股裂き状態にある。テロ対策に関しては他の政策分野に輪を掛けて、一国の立居振舞に対し、単純化した理解はできないのである。イランは、サウジアラビアと宗派的・地政学的に対抗関係にある、地域のもう一つのイスラム教大国である。第二次世界大戦後、国民の支持の下で石油国有化を断行しようとしたモサデク政権は、1953年に英米の情報機関が画策したクーデターにより排除されたが、このことは、今に続く同国民の反米感情の源泉となった。その後に打ち立てられた親米パフラヴィー朝による圧政に、国民の嫌悪は次第に蓄積し、ついには1979年、国外追放されていた宗教指導者のホメイニ師を迎え入れてのイスラム革命という形で噴出する。世界で唯一とも言える、純粋なイスラム法の支配を体現する体制であるイランは、同時に、そのシーア派という教義ゆえに周辺のイスラム教国とは軋轢を生じさせる存在でもあるという矛盾を抱える。こうしてイランは、イラク・スンニ派政権との戦争をまたぎ、その理念を「テロ支援」という形で輸出していくことになる*16。2009年には、イランのラリジャニ国会議長が、「ヒズボラとハマスへの支援を隠すつもりはない。ここに、公に宣言する」「(支援の理由は)彼らが自らの領土を守るために戦っているからである」と述べた。対するヒズボラの側も、2012年に最高指導者ナスララが、イランから支援を受けている旨を公式に認めた*17。そして、このような言説の中では、ヒズボラやハマスは「テロリスト」とは位置付けられていない。イランは現在、マネロン・テロ資金対策に対する取組みが不十分な国として、FATFによっていわゆるブラックリストに掲載されているが、ここで障害となっている主要な要素の一つが、同国のテロ資金対策法に入れられた、いわゆる「自由の戦士条項(Freedom Fighter Clause)」である。これは、「外国の支配、植民地主義、人種差別主義の終結を目指す」組織については、規制対象としないという、いわばホワイトリスト化のための例外規定である。当然これは、実質的にテロ資金対策をザルにすることであるとして、米国を中心に強い非難を受けている*18。なお、ソ連とのアフガニスタン戦争の最中、当時の米国レーガン大統領はムジャーヒディーンを「自由の戦士」として、全く同じ表現で褒め称え、その代表者達をホワイトハウス内の大統領執務室にまで迎え入れていることは、歴史の皮肉である。更にイランは、スンニ派のアル・カーイダを、宗派の違いを乗り越え反米という点を軸として支援している可能性についても、米国を中心に指摘されている*19。しかし、イランは現代の国際舞台で孤立している国では決してない。特に、産油国という性質上、欧州を

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