ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*9) なお、サウジアラビアとイランの対立関係については、米国公共放送ネットワーク・PBSがドキュメンタリーを制作しており、2020年には大手動画サイトでも無料公開された(タイトル:Bitter Rivals - Iran and Saudi Arabia)。全体で3時間近くに及ぶ長編であるが、両国の外務大臣への直接インタビューを軸に、客観的な視点と豊富な現地取材で構成され、イラクやパキスタン等他の周辺国との関係性もカバーされた、非常に秀逸な内容である。ブラックリスト・イラン・北朝鮮グレイリスト・アルバニア・バルバドス・ボツワナ・ブルキナファソ・カンボジア・ケイマン諸島・ガーナ・ジャマイカ・モーリシャス・モロッコ・ミャンマー・ニカラグア・パキスタン・パナマ・セネガル・シリア・ウガンダ・イエメン・ジンバブエ図表3:ブラックリスト及びグレイリスト掲載国(2021年10月時点)(再掲・筆者作成)2. テロ支援に係る地域主要国の関係性サウジアラビアについては慎重に留保しつつも、地下資金対策を見ていく上では一定の認識を持つことが必要であることに、疑いの余地はないであろう*9。まず最初に取り上げるべきは、どの国を差し置いてもサウジアラビアだ。2017年3月12日に同国のサルマン国王が来日した際、我が国のメディアは、まず国王が飛行機から専用のエスカレーターで降り立つ姿を映し、1,000人を超える随行団の様子とともに、賑やかに報じた。しかしその表層を一枚めくれば、サウジアラビアは、ある意味でこの地域の国々が抱える矛盾を、最も極端な形で表現している国家と言える。サウード家は、イスラム教原理主義の先駆けとも言える厳格なワッハーブ派の教義を基盤に、メッカ・メディナの二聖モスクの守護者としてアラビア半島の統治を確立した。サウジアラビアは、このような建国の理念故に、国内には常に過激な保守派を抱えてきた。特に1979年11月にメッカのアルハラム・モスクが、サウード家の支配を腐敗・堕落したものとして否定する武装集団によって支配された末に、パキスタン国軍やフランス特殊部隊等の助けも借りて鎮圧した事件は、国内の亀裂を露呈する結果となった。犯人達の一部は、宗派の違いこそあれ、イスラム国家を樹立したイラン・イスラム革命の影響を受けていたとされる。イスラム教世界の中心とも言える権威あるモスクに、外国人も含めた軍が投入されるという空前絶後の出来事を契機に、国内融和策として国の教育部門の運営は保守派の手に委ねられることとなった。結果として、教育を通じて国内で保守的なイスラム主義が再生産され続け、それが国家機構の中にも深く根付いていく構図が生まれ、他方でパキスタン等の国外友好国には、宗教学校の設立のため資金提供が行われることとなる。同時に、国内でのサウード家への批判の矛先をそらす知恵として、同じ時期に発生したソ連のアフガン侵攻が利用された。「宗教を否定する邪悪な共産主義者」からムスリムの同胞を守るジハードへと血気盛んな若者たちを駆り立て、いわば厄介払いをした訳である。

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