ファイナンス 2022年4月号 No.677
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()()パキスタンサウジ・アラビアイラン対立:「強い」支援タリバーン:中間的支援ハマス:「弱い」支援*6) Daniel Byman (2005 & 2008), op.cit. Daniel Byman & Sarah E. Kreps, Agents of Destruction? Applying Principal-Agent Analysis to State-Sponsored Terrorism, International Studies Perspectives, February 2, 2010*7) State Sponsors of Terrorism, Bureau of Counterterrorism, US Department of State TERRORIST ASSETS REPORT Calendar Year 2020 Twenty-ninth Annual Report to the Congress on Assets in the United States Relating to Terrorist Countries and Organizations Engaged in International Terrorism, Office of Foreign Assets Control U.S. Department of the Treasury, September 8, 2021*8) Stephen D. Collins, State-Sponsored Terrorism:In Decline, Yet Still a Potent Threat, Politics & Policy, Volume 42, No.1, The Policy Studies Organization, March 21, 2014 図表2:これまで指摘されてきた、国家からテロ組織等への支援関係。それぞれの態様や規模について、確定的な情報や解釈がないことには、十分に留意する必要。(Byman(2005, 2008), The 9/11 Commission Report(2004), 多谷(2016)等をベースに筆者作成)国家武装勢力テロ組織()アル・カーイダヒズボラ国家テロ支援は、現代の国際政治において最も大きな闇の一つとも呼べる部分であり、正確な全体像は謎に包まれている。とは言え、この背景につき全く関知していないというのでは、現在のテロ資金規制を巡る国際場裡での議論の本質は理解できない。情報の確度いことによって、国際政治の舞台において他国との正面衝突を避けるという、リスク回避ができる点である*6。今日のテロ資金規制を考えるに当たり、特にテロ支援との関係で重要な国は、サウジアラビア、イラン、パキスタンの3か国であるが、これらの国は、何れもそのような誘因を強く持つ国家だ。この3か国は、微妙に形態は違えど、それぞれイスラム教を建国の基礎に持っており、国内にはその教義を強く守護しようとする保守派がいる。次に、これらの国は地政学的に覇権を争う隣国が存在する。スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランはペルシャ湾を挟んで対峙し、英国からの独立時にヒンズー教国のインドと袂を分かったパキスタンは、現在に至るまで同国との間で国境紛争を抱える。他方で、正にそのような覇権競争を有利に運ぶため、サウジアラビアとパキスタンは現実政治においては米国と近い関係にある。正反対に、イランはイスラム革命の経緯から世界有数の反米国家であるが、それが故に、翻って欧州とは一定の良好な関係を維持したい。そうであれば、政府が矢面に立って軍事行動を起こすのではなく、関連する地域でのテロ活動を裏から支援することが「賢明な」選択となる。以下、テロ支援という視点から、FATFの中でも重要な位置付けにある上記3か国に係る歴史的経緯と現状を概観してみたい。FATFとの関係では、これらの国の内、イランとパキスタンはいわゆる「リスト掲載国」である(第4章・図表3参照)。一方、サウジアラビアはどちらかと言えば優等生として振る舞おうとし、特にイランに対しては、米国・イスラエル等と並んで厳しい態度で臨む傾向がある。しかし、これらの国家自身が時に他国からテロ支援の疑いを向けられ、それを否定し続けている点は共通している。後に見るイランのように、中枢の要人が支援を認めるケースでも、その対象がテロ組織であるとは断じて言わない。更に前述の通り、政府の中の限られた一部の勢力や有力アクターが個別に支援しているような場合、そもそも政府として、支援の実態を把握していない可能性も高い。なお、米国は「テロ支援国家」という直接的な呼称を用いて特定の国を名指ししている。現在はシリア・キューバ・イラン・北朝鮮の4か国が指定され、その資産が凍結対象となっているところ、その対象資産の概要は毎年の議会報告に掲載されている*7。一方で、このリストには親米国家であるサウジアラビアやパキスタンといった国は含まれていない等、その基準は政治的なものであり客観的に欠けるとも批判される*8。

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