ファイナンス 2022年4月号 No.677
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支援の主体*1) Emerging Terrorist Financing Risks, FATF, October 2015*2) Daniel Byman, Deadly Connections – States that Sponsor Terrorism, Cambridge University Press, 2005 Daniel Byman, The Changing Nature of the State Sponsorship of Terrorism, Analysis Paper Number 16, The Saban Center for Middle East Policy at the Brookings Institution, May16, 2008 Magdalena Kircher, Why States Rebel:Understanding State Sponsorship of Terrorism, Verlag Barbara Budrich, March 2016, Chapter 1 through 4*3) 正式名称は「国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法」*4) 欧州理事会ホームページhttps://www.consilium.europa.eu/en/policies/■ght-against-terrorism/terrorist-list/ Molly Quell, Top EU court returns Hamas to terror list after 3-year break, Courthouse News Service, November 23, 2021 吉村祥子編著『国連の金融制裁:法と実務』東信堂、2018年8月30日、第8章(柳生一成)*5) 衆議院議員鈴木宗男君提出パレスチナのガザ地区を実効支配しているハマスに対する政府の認識等に関する質問に対する答弁書(内閣衆質171第19号・2009年1月23日)、同第三回質問に対する答弁書(内閣衆質171第94号・2009年2月13日)影響力ある外部アクター体制内の一部勢力ハイレベル強い支援支援の類型弱い支援統制調整接触容認もう一つの前提として、そもそも国家・武装勢力・テロ組織などといった行為主体へのラベリング自体が、時代によって、また見る者の立場によって変わり得るものであるという事実がある。この点は、前章で取り上げた、テロリズムやテロリストという基本概念に対する、国際的なコンセンサスの不在という問題に関わる。加えて現実的にも、ある組織の性格付けはその支配力とともに変わっていかざるを得ないという面もある。最近の例では、一度はアフガニスタンの支配を追われたタリバーンは、その関係者が国連の制裁対象となり、我が国の国際テロリスト財産凍結法*3において「国際テロリスト」として公告されたが、メディアを含めた一般的な呼称は「イスラム主義勢力」となっていた。そして、今般の政権奪還に伴い、タリバーンは再び「国家」を体現する位置付けに回帰しつつある。また、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するハマスをどう位置付けるかも、悩ましい論点である。EUは2001年になって始めてハマスをテロ指定し、これによって今まで大手を振って活動していた団体が一斉に取締りの対象になる等、混乱を呈した。この指定の合法性については、長らく司法部門において係属していたが、2021年11月に欧州司法裁判所は指定を是認する判断を下した*4。なお我が国においても、テロ組織を法的に認定する法制度は存在しておらず、この点は正にハマスに対する政府認識に係る国会答弁の中で、明言されている*5。存在するのは、前掲の財産凍結法や公安調査庁の公表資料等における、個別的なリスティングのみである。一見所与と思える行為主体の分類は、国際的にも国内的にも、実は非常に不安定なものなのである。さて、なぜそもそも国家はテロを支援するのであろうか。その理由としては(1)自分達が奉ずるイデオロギーを拡散するという理念的側面、(2)周辺国の勢力を減殺し自国の地政学立場を有利に運ぶ、ないしは(3)国内における政治的支持を高めるという実利的側面が考えられ、それらは多くの場合、相互排他的ではなく重なり合っている。そして最も重要な点は、これらの目的を追求するに当たり国家自身が表に出な1. テロの国家的支援というパラダイムテロに対する国家からの支援については、機微な問題ではあるものの、FATFもその蓋然性については認めざるを得ない状況にある*1。議論の前提として、まずは「支援」という言葉の持つ意味を考える必要がある。国家がテロを支援していると聞くと、政府が一丸となってテロ組織を支援しているという図式のみを想定しがちであるが、支援の仕方には、直接的・積極的に資金や滞在場所を供与するような関与から、その活動を暗黙に認め、放置するという間接的・消極的なものまで様々な類型があり得る。また、そもそも国家というものを、常に日本のように秩序だった存在として想定できるとは限らない。テロを支援する主体というのもまた、政府内の一部の勢力であったり、または有力な宗教家のような、政府機構の外にありながら実際にはそれと同視し得るような強い影響力を持つアクターまで、様々である(図表1)*2。図表1:国家によるテロ支援の様々な形態(概念図・Byman(2005・2008), Kirchner(2016)等をベースに筆者作成)

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