ファイナンス 2022年4月号 No.677
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還流する地下資金9 国家間の共働・軋轢各国の制度国際規範・設計・実施基準の形成犯罪収益テロ資金核開発等資金刑事政策 外交・安全保障■ テロ資金規制の議論において現実問題として前提とせざるを得ないのは、一部の国家自身が様々な態様でテロを支援しているという実態。その理解のためには、「テロ組織」や「支援」といった概念にも、様々な態様があることを理解する必要。■ サウジアラビア、イラン、パキスタンといった国々は、建国の理念に根差した国内政治の構造及び地政学的なパワーバランスの中で、テロ対策に関しては特に難しい立場に立たされている。この地域の政治的機微は、アフガニスタン情勢にも影響。■ テロ資金のチャンネルとして慈善団体(NPO)があるが、文化的差異もあり我が国においては十分な認識が持たれていない。またテロ資金規制は、資金チャンネルの多様化等の課題も多いものの、対テロの取組み全体を促進している面も大きい。ソ連で18年間に亘り最高権力者の座にあったレオニード・ブレジネフは、1979年にアフガニスタンへの侵攻を決定したが、このことが今日に続く同地域の地政学的不安定性の要因となった。(出典:Anefo, CC0)―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―国家自身が生み出すテロ資金本章の範囲要旨IMF法務局 上級顧問  野田 恒平アフガニスタンの不幸な現代史は、9.11に始まるものではなく、その20年以上前のソ連による侵攻の際に、既に決せられていたと言えるだろう。1979年、ブレジネフは内紛が絶えなかったアフガニスタンを東側陣営に繋ぎ止めるため、軍事侵攻を決める。その後10年にも及んで泥沼化した戦争は、結局、社会基盤の破壊と混乱のみを残した。そして、もう一つの負の遺産がある。ソ連への対抗上、米国を始めとした各国が膨大な支援を行った、ムジャーヒディーンと呼ばれるジハディスト達である。この中から誕生したアル・カーイダは、後に当の米国に対しても牙を剥くこととなる。前章では、イスラエルに関わる一連のテロ事件が、国際的なテロ防圧に向けた議論を喚起し、それが現在のテロ資金供与規制に繋がっている旨を見てきた。しかしそれは、「テロ」概念に対する共通理解の不在という根源的な不安定性を抱えたまま、9.11のモメンタムを得て性急に組み上げられたガラス細工の櫓でもある。中東問題、隣国同士の軋轢、そしてアフガニスタン情勢と対立軸が錯綜する中、国家はしばしば、自らの覇権を維持・拡大する代理勢力として、他国の立場からはテロリストとみなされる組織を、直接・間接に支援している。テロ資金規制との関係でも、「テロ」という共通の悪を取り締まろう、というプラス総和の共働作業は、地表面で起きているゲームの一部分に過ぎない。そのやり取りの裏側で暗示されているのは、お互いの「テロ支援」に対し、テロ資金規制というアングルから斬り込んでいこうとする各国の間での、厳しい駆け引きである。

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